住宅ローンを組みつつ、手元の現金を運用する――。一見賢いこの選択が、利上げ期には「現金不足」という致命傷を招くことがあります。実例をみていきましょう。
「パパ、久しぶりに焼肉行きたいな」…埼玉に引っ越してから外食が減った理由を知らない娘。〈4,500万円フルローン〉を組んだ40歳夫は「ママに聞いて」と言葉を濁し、妻が静かにキレた夜 (※写真はイメージです/PIXTA)

埼玉にマイホームを構えた40代夫婦

「ねえパパ、久しぶりに焼肉行きたいな。最近ずっとお家のごはんばかりだもん」

 

埼玉県の新築一戸建て。家族で夕食を囲んでいたとき、小学生の次女が無邪気にいいました。その瞬間、食卓の空気が凍りつきます。

 

アキラさん(仮名/40歳)は、箸を止めて引きつった笑顔を浮かべました。

 

「あ、あはは……そうだな。ママに聞いてごらん」

 

目を逸らすアキラさんの向かいで、妻のレイコさん(仮名/40歳)は無言のままアキラさんを睨んでいます。

 

アキラさんの年収は700万円。世間一般で見れば決して低い額ではありません。念願のマイホームも手に入れ、順風満帆にみえるこの家庭で、なにがあったのか。その背景には、住宅購入時のある決断にありました。

 

都内の賃貸マンションが手狭になったことを機に、住宅購入を決意しました。エリアを広げて検討し、埼玉県内に4,500万円の新築建売住宅をみつけます。

 

アキラさんには、亡くなった父から受け取った生命保険金1,000万円と、貯蓄500万円、計1,500万円の手元資金がありました。当初アキラさんは、「金利も上がってきているし、借金は少ないほうがいいだろう」と、この1,000万円を頭金として使い、借入額を3,500万円に抑えるつもりでした。

 

しかし、住宅販売会社の担当者からある提案を受け、心が揺らぎます。

「変動金利ならまだ低い」

担当者はこういいました。

 

「確かに固定金利は上がっていますが、変動金利ならまだ0.6%台で借りられます。頭金を入れて手元の現金を減らすより、フルローンにして住宅ローン減税を活用しつつ、1,000万円は資産運用に回してインフレに対抗しましょう」

 

提案されたのは、一時払いの外貨建て終身保険。米ドルで運用し、老後に解約すれば、円安効果と合わせて高い利回りが期待できるというものです。

 

「なるほど、インフレ対策か」アキラさんはその気になりました。妻のレイコさんは「ニュースでも利上げっていってるし、借金は怖い」と反対しましたが、そのときは自分の主張が合っているのか判断つかず、結果折れるかたちに。

 

アキラさんは4,500万円のフルローン(変動金利)を組み、手元の1,000万円で外貨建て保険を契約しました。手元に残った貯蓄は500万円。「当面は大丈夫だろう」と、アキラさんは満足げでした。