十分な貯蓄があり「老後は安泰」だと思っていても、予期せぬ事態で資産を失うことがあります。たとえば家族への資金援助。ある女性のケースをみていきます。
「長生きなんて、するんじゃなかった…」年金月13万円・市営団地の84歳を追い詰めた「娘の夫」と「想定外の出費」 (※写真はイメージです/PIXTA)

老後の「家族リスク」にどう備えるか?

老後安泰のはずが、我が子やその配偶者の経済状況に巻き込まれ、自身の老後資金を失う……。そのようなリスクを想定している人はどれほどいるでしょうか? 家族ゆえ、防ぐことのできない老後のリスクといえるでしょう。

 

厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、日本人女性の平均寿命は87.13歳、男性は81.09歳です。65歳まで生きた女性の場合、約半数が90歳まで生存するというデータもあります。定年退職後、20年から30年近く続く老後を生き抜くためには、現役時代に蓄えた資産が生命線となります。

 

しかし、内閣府『令和6年 高齢者の経済生活に関する調査』によると、「現在の経済的な暮らし向き」に対して、30.7%が「心配である」と回答。また「貯蓄は十分か」の問いに対しては、57.1%が「足りない」、さらに35.2%が「かなり足りない」との結果が出ています。

 

特に注意が必要なのが、子ども世帯への資金援助です。同調査でも、「お子さんやお孫さん(それぞれの配偶者あるいはパートナーを含む)の生活費を負担していますか」の問いに対して、25.2%と4人に1人が「負担している」と回答しました。家族ゆえ、「断りたくても断れない」というケースも珍しくないでしょう。

 

また住宅購入や孫の教育費への援助ならまだしも、事業資金や借金の肩代わりは、高齢親の家計を直撃します。一度援助をすると「困ったら親がなんとかしてくれる」という依存関係が生まれやすく、老後資金が流出する恐れがあります。

 

子や孫への援助により生活を破綻させないためにも、老後資金と援助資金を明確に分けることが重要。「自分の生活を守るための資金」には絶対に手を付けないと決め、子どもたちにも「これ以上は出せない」と早めに宣言することが大切です。

 

親心として子どもを助けたい気持ちは自然なものですが、共倒れになっては元も子もありません。心を鬼にして「出さない」という決断をすることも、またひとつの愛情の形です。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和6年簡易生命表』

内閣府『令和6年 高齢者の経済生活に関する調査』