十分な貯蓄があり「老後は安泰」だと思っていても、予期せぬ事態で資産を失うことがあります。たとえば家族への資金援助。ある女性のケースをみていきます。
「長生きなんて、するんじゃなかった…」年金月13万円・市営団地の84歳を追い詰めた「娘の夫」と「想定外の出費」 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金13万円生活の困窮……「娘のため」の優しさがすべての元凶

「長生きなんてしても、良いことなんてありませんね」

 

神奈川県内の古い市営団地。ここで一人暮らしをしている佐藤桜子さん(84歳・仮名)。現在の収入は、亡き夫の遺族年金と自身の年金を合わせた月額約13万円です。そこから家賃3万5,000円と介護保険料や税金、光熱費が引かれます。物価高のなか、年齢とともに医療費の負担額も徐々に増え、食費を切り詰めて対応する日々が続いています。

 

かつての桜子さんは、決して生活に困窮するような状況ではありませんでした。夫が他界した65歳の時点で、預貯金は2,000万円近くありました。老後は安泰だと思っていたのです。人生の歯車が狂い始めたのは、7年前のこと。一人娘の真由美さん(現55歳・仮名)の夫、健二さん(現58歳・仮名)が「上司と反りが合わない」と言って、長年勤めた会社を突然辞めてしまったのが始まりでした。

 

「『雇われる時代は終わり』とか言って、退職金で投資を始めたみたいです。私は嫌な予感がしたんですが、娘が『彼を信じたい』と言うので黙っていました」

 

半年も経たないうちに、真由美さんが真っ青な顔で桜子さんの自宅を訪ねてきました。「健二さんが投資に失敗した。今すぐ500万円入れないと、借金だけが残る。お母さん、助けて」と泣き崩れたといいます。

 

「娘のやつれた顔を見たら、断れませんでした。私が助ければ、また元の生活に戻れると思ったんです」

 

一度助けるとハードルが下がってしまったのか、数カ月おきに娘が来るようになりました。「今度こそ最後だから」「彼も反省しているから」と繰り返す娘。桜子さんは「これで縁が切れるなら」と自分に言い聞かせ、定期預金を解約し、援助しました。

 

「結局、健二さんは働く気なんてさらさらなかったんでしょうね。私が資金源だと勘違いしていたんです。貯金が底をつき、総額で1,800万円以上は消えましたよ」

 

お金が尽きた今、健二さんは桜子さんの前に一度も顔を見せません。しかし、娘の真由美さんとは今も交流があります。それが逆に、桜子さんを苦しめています。

 

「娘はたまにここへ来て私の世話をしてくれますが、いつも疲れ切っていて、着ている服もヨレヨレです。そんな娘の姿を見るたびに、『あの時、心を鬼にして突き放していれば、あの子も離婚してやり直せたかもしれない』と後悔が襲ってくるんです。娘を助けたつもりが、娘ごとダメにしてしまった。この歳でこんな気持ちになるなら、長生きなんてするもんじゃないですね」