親の介護は、ある日突然始まります。「育ててくれた親だから」と責任を感じ、仕事を辞めて介護に専念する人もいますが、それは親子共倒れを招きかねない危険な選択です。ある男性のケースをみていきます。
「頼む、もう施設に入ってくれ…」汚物の臭いが染みついた実家で、55歳・介護離職の息子が吐いた暴言〈年金月14万円・78歳母の介護地獄〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

親の介護は「明確な終わり」が見えない

親の介護を理由に仕事を辞めてしまう「介護離職」は、今や社会的な課題となっています。

 

総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』によると、過去1年間に「介護・看護」を理由に離職した人は約10万6000人。そのうち約8万人が女性ですが、男性であっても他人事ではありません。また、経済産業省の試算では、仕事と介護の両立困難による労働生産性の低下や離職に伴う経済損失額は、2030年には約9兆円を超えると予測されています。

 

介護離職の問題点として挙げられるのが、一度キャリアを断絶すると、経済的な困窮に直結しやすい点です。育児と異なり、介護には明確な終わりが見えません。数年で終わる場合もあれば、10年以上続くこともあります。その間、収入が途絶え、自身の老後資金を取り崩すことになれば、親を見送った後に残るのは、貯蓄も職もない高齢の自分自身。これを防ぐためには、以下の視点を持つことが重要です。

 

まず、親の介護に直面したとき、子どもがとるべき最善の策は「仕事を辞めずに続けること」です。「自分が面倒を見なければ」という責任感や、「施設に入れるのはかわいそう」という罪悪感から離職を選ぶケースが多いですが、プロの手を借りずに家族だけで介護を完結させることは極めて困難です。

 

たとえば、自分でおむつを替えるのではなく、地域包括支援センターやケアマネジャーと相談し、介護保険サービスや外部リソースをどう組み合わせるかを管理する役割に徹することが重要です。また、職場への早期相談も不可欠。「まだ大丈夫」と思わず、初期段階で上司や人事に状況を伝え、介護休業や時短勤務、リモートワークなどの制度を確認しておくことで、突発的な事態にも対応しやすくなります。

 

また金銭面では「親のお金で介護する」ことが原則です。親の介護費用は、親の年金や貯蓄から捻出する。そこに罪悪感を持つ必要はありません。「親のために」と仕事を辞めることは、結果として親子共倒れのリスクを高めます。親と適切な距離を保ち、自分の生活基盤(仕事・収入)を死守することこそが、長く続く介護生活を乗り切る唯一の方法といえるでしょう。

 

[参考資料]

総務省統計局『令和4年就業構造基本調査』

経済産業省『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』