十分な年金と貯蓄があっても、高齢というだけで賃貸契約を断られてしまう——。建物の老朽化などに伴い、次の住まいを探す単身高齢者が門前払いされるケースが後を絶ちません。ある女性のケースをみていきます。
築40年アパート取り壊しで立ち退き…「年金月16万円・79歳独身女性」が不動産会社10軒で突きつけられた「部屋が借りられない恐怖」

大家が恐れる「孤独死」と「家賃滞納」…国が整備するセーフティネットの現状

ヨシ子さんの事例は、決して特別なものではありません。高齢化が進む日本において、高齢者の入居拒否は一般的な課題となっています。

 

株式会社R65/R65不動産が行った『高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2025年)』によると、65歳を超えて賃貸住宅を探した際、「苦労した」と回答した人が42.8%。また30.4%が「年齢を理由に入居を断られた経験あり」と答えました。さらに断られた回数を尋ねると、12.1%が「5回以上」と答えています。

 

また同社が2024年に公表した『高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)』では、高齢者の入居を「受け入れていない」賃貸オーナーが41.8%。約4割の賃貸オーナーが高齢者を理由に入居を断っています。

 

高齢者の入居を拒否する理由のひとつが「孤独死リスク」と「家賃滞納リスク」。 孤独死が発生した場合、特殊清掃や遺品整理の費用がかかるだけでなく、その後の賃貸募集において心理的瑕疵物件として扱われ、家賃を下げざるを得ないケースも発生します。民間賃貸住宅の大家の多くは個人経営であり、こうした経済的損失を避けるために「高齢者不可」とする防衛策が取られています。

 

こうした状況を受け、公的な支援制度も存在します。 代表的なものが独立行政法人都市再生機構が運営する「UR賃貸住宅」です。礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要であり、高齢者向けの割引制度や、見守りサービス提携などの支援が充実しています。しかし、人気エリアでは空室が少なく、希望するタイミングで入居できないことも少なくありません。

 

また、国は「住宅セーフティネット制度」を推進しています。 これは、高齢者や低額所得者などの入居を拒まない賃貸住宅を登録し、情報提供を行う制度です。居住支援法人による見守りサービスや家賃債務保証の支援などとセットで運用されていますが、登録物件数は賃貸市場全体から見ればまだ限定的です。

 

高齢者の単身世帯が増加の一途をたどるなか、より実効性のある住居確保の仕組みづくりが急務となっています。

 

[参考資料] 

株式会社R65/R65不動産『高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2025年)』

株式会社R65/R65不動産『高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)』