親の介護や入院をきっかけに、長年抱えていた家族間の不満が爆発する――。決して珍しい話ではありません。「うちは資産家ではないから大丈夫」と高を括るのは禁物です。実は、遺産相続トラブルの多くは、ごく一般的な家庭で起きています。ある兄妹の事例を通して、意外な落とし穴と、悲劇を防ぐための対策についてみていきます。
「おむつ交換もしないくせに!」資産5,000万円を狙う兄に妹が激怒…80歳父の病室で起きた〈醜い修羅場〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

介護をしない兄の「権利主張」に妹が激怒

都内在住の田中正夫さん(仮名・75歳)。先日、兄の健造さん(仮名・80歳)が自宅で脳梗塞を起こして倒れ、緊急入院することになったといいます。その入院先の病室で目撃した、健造さんの長男・博(仮名・52歳)と長女・由美(仮名・48歳)の「あまりに情けない争い」について教えてくれました。

 

「兄貴が倒れたと聞いて、すぐに病院へ駆けつけました。そこには由美ちゃんがいて、甲斐甲斐しく世話を焼いていました。彼女は実家の近くに住んでいて、独り身になった兄貴の食事の世話や通院の付き添いを、もう3年も続けていたんです」

 

一方で、長男の博さんは、実家から電車で1時間ほどの場所にマイホームを構えていますが、顔を見せるのは盆と正月くらい。健造さんが倒れた日も「仕事が忙しい」と言って、現れたのは翌日のことでした。

 

事件が起きたのは、健造さんの意識が戻り、個室に移って数日後のことでした。見舞いに来た博さんが、ベッドに横たわる健造さんではなく、由美さんに向かってこう切り出したのです。

 

「親父もこの先どうなるか分からないし、認知症になってからでは遅いから、通帳と印鑑は長男の俺が預かっておくよ。暗証番号も聞いておかないとな」

 

正夫さんは、博さんのこの発言には明確な狙いがあったと振り返ります。


「兄貴は公務員として定年まで働き、質素な生活で貯めた退職金や貯蓄が5,000万円ほどあると聞いていました。家のローンや教育費を抱える博くんにとっては、どうしても財産管理の主導権を握りたかったのでしょう」

 

しかし、その言葉を聞いた瞬間、由美さんの表情が一変しました。これまで溜め込んでいた不満が爆発したのです。

 

「お父さんが倒れたときも来なかったくせに、お金の話だけは早いのね! 普段の介護も私に押し付けて、自分は『長男だから』って権利だけ主張するなんて、絶対に許さない!」

 

「俺は長男だぞ、家を守るのは俺の役目だ」と言い返す博さんに対し、由美さんは「だったらおむつ交換のひとつでもしてよ!」と怒鳴り返します。そして、健造さんの荷物が入ったバッグを博さんが掴もうとした瞬間、由美さんがそれを阻止しようとし、病室の真ん中でバッグの引っ張り合いが始まってしまったのです。

 

「『いい加減にしろ!』と私が止めに入りましたが、2人は聞く耳を持ちません。ベッドの上で兄貴はオロオロと涙していましたよ……。親の目の前で、金目のものを奪い合うなんて、本当に地獄絵図でした」

 

正夫さんは深くため息をつきました。結局、その場は看護師が駆けつける騒ぎとなり、通帳は正夫さんが一時的に預かることで収まりましたが、兄妹の溝は決定的なものとなってしまったといいます。