この歳で住む家が見つからないなんて…
「まさか、お金があっても部屋を貸してもらえないなんて思いもしませんでしたよ。叔母も私も、世間知らずだったのかもしれません」
疲れた様子でそう語るのは、都内のメーカーに勤務する佐藤健二さん(52歳・仮名)です。佐藤さんは昨年末、親戚である田中ヨシ子さん(79歳・仮名)の転居先探しに奔走しました。
ヨシ子さんは20代で上京して以来、独身を通してきた女性。定年まで事務職として働き、月16万円の年金に加え老後の蓄えもあり、金銭的な不安はありませんでした。 住まいは都内にある築40年の木造アパート。30年以上住み慣れたその部屋は、ヨシ子さんにとって安住の地でした。
事態が急変したのは昨年秋のことでした。アパートの老朽化を理由に、大家から取り壊しと立ち退きを告げられたのです。
「半年以内に退去してほしいと言われ、最初は叔母も『新しいマンションに引っ越すいい機会だわ』なんて楽観的でした。家賃を少し上げれば、オートロック付きのきれいな部屋に住めると思っていました」
しかし、現実は厳しいものでした。ヨシ子さんが1人で近所の不動産会社を訪ねたところ、何とも理不尽な対応を受けたといいます。
「高齢で単身、という条件を伝えると、その場で『紹介できる物件がない』と断られたそうです。何件か回ってもダメで、泣きつかれた私が保証人になるからと、一緒に不動産会社を回ることになりました」
佐藤さんという現役世代の親族が保証人になれば、すぐに決まるだろう。そう高をくくっていた佐藤さんですが、その予想は裏切られます。
駅前の大手不動産会社に入り、カウンターで希望条件を伝えます。担当者がパソコンで検索し、管理会社や大家へ電話をかけますが、受話器越しの会話は芳しくありません。
「『あ、入居者は79歳です。ええ、お1人で。……そうですよね、すみません』。そんなやり取りを目の前で繰り返されるんです。5軒回りましたが、門前払いか、電話確認でNGかのどちらかでした」
大家が懸念するのは、やはり「孤独死」のリスクです。佐藤さんが「私が定期的に様子を見に行きます」「見守りサービスも契約します」と食い下がっても、「前例がない」「オーナーが高齢者の入居を嫌がる」の一点張りだったといいます。
結局、不動産会社を回ること8件。やっと新居が見つかりました。 駅から徒歩15分ほどの築30年のマンション。家賃は以前よりも1万円ほど高くなりましたが、今度はエレベーター付き。足腰が弱くなっても安心と、喜んでいるそうです。