定年を機に収入は減っても、現役時代の金銭感覚が抜けきらず、家計のバランスを崩してしまうケースは少なくありません。「貯蓄があるから大丈夫」という過信は、老後破綻を招く危険な落とし穴です。老後の家計を守るためのポイントについてみていきましょう。
「俺が稼いだ金だ!」手取り月20万円で週末ゴルフ三昧の62歳元部長…家計簿を見せた妻に逆ギレ、突き進む「老後破綻」への道 (※写真はイメージです/PIXTA)

収入ダウンでも支出はそのまま…統計に見る60代の家計

田中さん夫婦のように、定年後の収入減と現役時代の支出習慣のギャップに苦しむケースは珍しくありません。特に、現役時代に収入が高かった世帯ほど、生活レベルを下げること(ダウンサイジング)に強い抵抗感を抱きがちです。

 

総務省の家計調査データを見てみましょう。65歳以上の夫婦のみの無職世帯(高齢夫婦無職世帯)の税金や社会保険料を除いた可処分所得は、月額約22万2,462円。一方で、消費支出の合計は25万6,521円です。つまり、毎月約3万4,000円の赤字が発生しており、不足分は貯蓄を取り崩して生活しているのが平均的な姿といえます。

 

他方、ほとんどの人が現役だった少し前、世帯主が50代後半の勤労世帯の家計収支を見ていくと、家族はおよそ3人。可処分所得57万9,763円に対し、消費支出は35万4,102円です。収入がピークに達する人も多い年齢であり、家族が多いこともあって消費旺盛ですが、それでも月22万円ほどの黒字になっています。

 

このときの感覚のまま定年を迎え、夫婦2人の生活に突入したら……。毎月の赤字額は膨大なものになり、貯蓄が底をつく悪夢が頭をよぎっても不思議ではありません。

 

さらに最大のリスクは、完全リタイア後です。年金収入(今回のケースでは夫月18万円、妻月7万円と想定)のみになった時点で、支出が35万円のままであれば、毎月10万円以上の赤字が出ることになります。年間で120万円の赤字。10年で1,200万円、20年で2,400万円……。とても老後安泰とは言い難い状況です。

 

「貯蓄があるから大丈夫」という過信は禁物です。再雇用期間は、あくまで「老後生活への助走期間」。収入があるうちに生活のサイズを年金収入の範囲内にまで徐々に縮小していくことこそが、家計破綻を防ぐ有効策といえるでしょう。

 

ちなみに離婚も視野に考えているという洋子さん。夫の浪費が原因で「婚姻を継続しがたい重大な事由」や「悪意の遺棄」に該当する場合、裁判での離婚が認められる可能性があります。とはいえ、今は夫婦の話し合いを進めることが先決といったところでしょうか。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』