将来の生活設計を考えるうえで、退職後の資金管理はとても重要です。家計を支えてきたという自負があっても、老後の資金が十分あるかどうかは必ずしも見えている現実とは限りません。安心したセカンドライフを迎えるために、資金計画や万一の予期せぬ事態にも対応できる備えを、今から確認しておく必要があります。
小遣い「月1万5,000円」で頑張ってきた59歳夫。退職金「1,800万円」定年退職のつもりが「もう少し働いて…」と妻、懇願。差し出された預金通帳、思わず二度見の預金残高に「何かの間違いでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

真面目な家庭を崩壊させる「ギャンブル依存症」の深刻な実態

今回の事例のように、真面目な家庭を崩壊させるギャンブルによる借金問題は、決して珍しい話ではありません。

 

日本弁護士連合会が2023年に公表した『破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、破産の申し立てをした人の負債額は、平均1,084万2,551円。また破産に至った主な理由(多重債務者)をみていくと、「生活苦・低所得」が最も多く(65.86%)。「病気・医療費」(26.44%)、「失業・転職」(17.36%)、「給料の減少」(11.44%)と続きます。「ギャンブル」は(9.89%)と、決して少なくないことがわかります。

 

そもそもギャンブル依存症は、単なる「気の緩み」や「趣味」で片づけられる問題ではありません。世界保健機関(WHO)も認める精神疾患のひとつであり、医学的には「ゲーム障害(ギャンブル関連)」として分類され、自分の意思だけでは止められない、脳の機能に影響を及ぼす深刻な病気とされています。

 

負けても取り戻そうと、より多額のお金をつぎ込み、頻度が増していき、治療なしでは回復が難しいもの。また、再発しやすい特徴があります。お金の問題だけでなく、嘘や隠し事による家庭内の不信感を生み、家族全体を巻き込んで心身を疲弊させるケースも珍しくありません。

 

今回の事例で、夫婦が息子の借金を肩代わりしましたが、それだけでは依存症治療において逆効果になることがあります。「イネイブリング(助長行為)」と呼び、本人が痛み(借金や生活の破綻など)を経験しないと、「また誰かが助けてくれる」と依存行動が強化されてしまうことがあるのです。

 

ギャンブル依存症に対し、家族が取るべきは、まず事実を認め、専門機関へ相談すること。本人を責めるのではなく、「病気」として捉え、精神保健福祉センターや専門病院、自助グループにすぐに相談することが先決です。さらに財布、通帳、キャッシュカードをすべて本人から隔離し、家族が厳重に管理します。また依存症に巻き込まれた家族のための自助グループ等で、対応方法を学び、家族自身の孤立を防ぐことも肝心です。

 

「ショックでした。長男がギャンブル依存症になったことはもちろん、息子も妻も、私に相談してくれなかったことが……。仕事ばっかりだったから、頼れなかったのでしょう。本当、情けないです」

 

この一件があり、健一さんは定年退職を辞め、再雇用で働き続けることを決意。長男・翔太さんは1年半の治療の末、仕事復帰を果たしたといいます。

 

[参考資料]

日本弁護士連合会『2023年破産事件及び個人再生事件記録調査』

消費者庁『ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ』