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「1人が気楽よ」強気な母が抱え込んでいた「70代の恐怖」
東京都内で家族と暮らす田中美咲さん(45歳・仮名)は、仕事と子育てを両立させ、奮闘する日々を送っています。また地方の実家で1人暮らしする母・久美子さん(70歳・仮名)とは、1週間に1回、電話連絡することが習慣になっていました。
「母が受け取る年金は月10万円ほど。働いている私でも、買い物のたびに『たかっ!』と口に出てしまうほどの物価高じゃないですか。だから最近聞くことと言えば、もっぱら『お金は大丈夫?』『1人で平気?』ということですね。母は決まって『年金だけで大丈夫。1人暮らしは気楽でいいわよ』と強気な発言をしていました」
元々久美子さんは、“肝っ玉母ちゃん”といった雰囲気で、何事も豪快に笑って済ませるような人だった。そんな母の性格も知っている美咲さんは、母の言葉を額面通り受け取っていたといいます。
「思えば、母も70歳。何でも昔のようにはいかないことくらい、少し考えればわかることだったのに。あまりに浅はかでした」
そのきっかけは、高校の同窓会のため、7カ月ぶりに地元に帰ったときのことでした。日帰りのつもりでしたが、急遽、実家を訪ねることにしたといいます。念のため電話をしましたが繋がらず、アポなしの一時帰省になったといいます。
「外出中なら先に入って休ませてもらおうと、合鍵で家に入ったんです。すると明らかな異変が美咲さんの目に飛び込んできました」
まず、目についたのは、整理整頓されていたはずの台所のシンクに、数日分の食器が置きっぱなしになっていること。そして、部屋の隅には、届いたまま開封されていない郵便物やチラシが山積みになっていました。以前は少しでも散らかっていると気が済まない母だっただけに、この光景は異常に感じられました。
そして、美咲さんが一番ショックを受けたのは、冷蔵庫の中です。野菜はしなび、賞味期限切れの食品がいくつかあり、以前はきっちり管理されていたはずの食材が、まるで無頓着に詰め込まれていました。
ショックを受けている最中、久美子さんが帰宅しました。いるはずのない娘に一瞬驚いた表情を見せましたが、すぐにすべてを察したような顔になったといいます。
「賞味期限切れの牛乳を指さして、『これ、いつの?』と聞くと、『あぁ、うっかりしていたわ。大したことないわよ』と返ってきました。でもやはり、以前の母とは違うのは明らかでした」
そこでじっくり話を聞いたという美咲さん。すると、以前にはなかった「しまい忘れや置き忘れ」、「人・物の名前が出てこない」、「日時がわからなくなる」ということがよくあるそうです。
「自分ではわからないけれど、まわりの人から指摘されるようになったと。そして『病院に行ったほうがいいと思うけれど、怖くて』と……。母は気丈に振る舞っていたのだと思ったら、涙が止まらなくなりました」