(※写真はイメージです/PIXTA)
「開放感」が生んだ“監獄”生活
引っ越ししてすぐに気づいたのは、「視線」の恐怖。「南向きの大きな窓」は、日当たりは最高ですが、目の前の道路を通る人や車からリビングが丸見えだったのです。
「引っ越して最初の週末、ウッドデッキで朝食を食べようとしたら、犬の散歩中のご近所さんと目が合って気まずくなりました。それ以来、デッキには出ていません」とシオリさん。
「開放感」を求めて作ったはずの大開口サッシは、結局、遮光カーテンで一日中閉ざされたまま。夜、明かりをつけると中がシルエットで浮かび上がるため、シャッターも閉めっぱなし。 憧れの「光あふれるリビング」は、皮肉にも「外の目を気にして暮らす薄暗い部屋」になってしまいました。
「人気の学区」が生んだ“濃密すぎる”コミュニティ
カツキさんを精神的に追い詰めたのは、地方戸建て特有の「コミュニティの重圧」でした。2人がこの土地を選んだ決め手は、「県内でも有数の文教地区(人気の学区)」だったからです。
「子どもの教育環境を考えて、新興住宅地ではなく、落ち着いた古くからの住宅街を選びました。治安もいいし、ここなら安心だと信じていたんです」
しかし、古くからの住民が多い地域のルールはカルチャーショックそのものでした。
「賃貸なら管理会社がやってくれますが、ここでは家の周りの掃除や草むしりは全部自分。さらに、この地域は『景観協定』が厳しく、少しでも庭が荒れると近所から無言の圧力がかかるんです」
さらに、町内会の行事が追い打ちをかけます。 高齢化が進むこの地域では、30代のカツキさん夫婦は貴重な「若手」。子ども会や祭りの役員が、入居早々に回ってきました。
特にカツキさんが「ビクッとする」と語るのが、祭りの季節です。「夕方になると、近くの集会所から『ドンドンドン!』と太鼓や笛の練習の音が響いてくるんです。気密性は高いはずなのに、大きな窓ガラスが振動しているように感じて……」その音が聞こえるたび、「あ、また集まりに行かなきゃいけないのか」「なにか手伝いを忘れてないか」と、カツキさんは体を強張らせてしまうそうです。
早朝のドブ掃除、神社の祭り準備、夜間の見回り当番……。休日になると、ゆっくり寝ているどころか、ジャージに着替えて近所付き合いに奔走しなければなりません。
「『賃貸はドブ』といわれましたが、貴重な休日の時間をドブ掃除に費やしている気分です。管理費さえ払えば誰とも関わらなくて済んだ、賃貸の気楽さが恋しい……」
「資産」どころか…5年で1,000万円の下落
そして極めつけは「資産価値」の現実でした。3年間の暮らしに疲弊したカツキさんは自宅の査定を依頼しました。「こだわりの注文住宅だし、高く売れるはず」と期待するも、提示された額は3,800万円。購入額から3年で1,000万円以上下がっていました。「注文住宅のこだわりは、他人にとっては『使いづらい』と評価されることも多く、建物価値の減価が激しいんです」という不動産業者の言葉に、2人は絶句しました。
売るに売れない「オーバーローン」状態です。「資産になる」と信じて買った家が、実際には住まいの選択の自由を奪う足かせになってしまいました。