定年は、人生における大きな節目。 特に現役時代を仕事中心に過ごしてきた男性にとって、退職後に「居場所がない」と感じる問題は深刻化しているようです。 ある男性のケースをみていきましょう。
俺の居場所が…ない。〈退職金2,700万円〉毎日「図書館通い」の63歳男性、「妻の冷たい視線」に耐えられなくなった理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫の「居場所」問題、カギは夫婦間の期待値のズレ

株式会社ハルメクホールディングス/ハルメク 生きかた上手研究所が全国の50~79歳・既婚の男女600名を対象に実施した『夫婦関係に関する調査2025』によると、夫婦関係の満足度は68.7%。 男女別にみると、男性69.3%、女性68.0%とほぼ同率です。

 

調査では配偶者との関係に「満足」「やや満足」と答えた層を「仲良し夫婦」、配偶者との関係に「どちらでもない」「あまり満足していない」「満足していない」と答えた層を「不仲夫婦」と定義づけています。 「一緒に過ごす時間が長すぎる」と感じる時間について尋ねたところ、「そう感じることはない」と回答したのは仲良し夫婦で75.0%、不仲夫婦で37.8%。 夫婦関係が悪いと、時間の長短が不満の要因となることが伺えます。

 

さらにどれくらいの時間で長いと感じるか尋ねたところ、仲良し夫婦では「5時間以上」が11.4%と最多。 一方、不仲夫婦では「2~3時間半未満」が13.8%と最多であったものの、「1~2時間未満」「30分未満」が10.6%。 当然といえば当然ですが、夫婦仲が悪いと、できるだけ時間を一緒にしたくないと思うようです。

 

また、内閣府『令和5年度 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』(60歳以上対象)を見ると、「家族以外の人(友人、近所の人、仲間など)との会話の頻度」について、「ほとんど毎日」と回答した日本の割合は38.7%と、調査対象国(アメリカ71.6%、ドイツ49.4%、スウェーデン71.3%)の中で最も低くなっています。

 

現役時代を仕事中心に過ごし、地域コミュニティや趣味仲間といった「会社以外のつながり」が希薄だった男性は、退職と同時に社会的な居場所を失いがちです。 その結果、「家庭」を唯一の居場所と捉え、妻との関係に依存しやすくなります。

 

一方、妻側は、夫が退職した後も、それまで築いてきた仕事先や友人関係、趣味などの「自分の生活ペース」を維持したいと考える傾向があります。 そこに夫が一日中在宅することで、「自分の時間や空間が侵害される」と感じ、夫の存在そのものがストレスになってしまう、ということも珍しくありません。

夫が「退職後は夫婦で一緒に」と無意識に期待していたのに対し、妻は「自分の生活も大切にしたい」と考えていたという、夫婦間の期待値のズレ。 セカンドライフを円満に過ごすためには、定年前からお互いが望む生活スタイルについて話し合っておくことが大切なのかもしれません。

 

[参考資料]

内閣府『令和5年度 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』

株式会社ハルメクホールディングス/ハルメク 生きかた上手研究所『夫婦関係に関する調査2025』