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毎日の日課は図書館通い…定年夫の戸惑い
大手メーカーで働いてきた木村修さん(63歳・仮名)。 60歳の定年で手にした退職金は2,700万円ほどだといい、これを機にきっぱりと仕事人生に区切りをつけました。
「再雇用の道もありましたが、後進に道を譲るべきだと考えましたし、なによりも体力的な不安もありました。 退職金も人並み以上にもらうことができたし、老後の蓄えは十分にあるつもりでした。 経済的な心配はありませんでした」
退職当初は、現役時代は難しかった長期の旅行に妻・洋子さん(仮名・62歳)と行くなど、定年生活を存分に楽しんできましたが、そんな非日常をいつもしているわけには行きません。 次第に時間を持て余すようになりました。
「趣味という趣味もなくて」と木村さん。 そこで目をつけたのが、近所の図書館でした。
「朝、開館と同時に入館し、まずはすべての新聞に目を通す。 経済紙からスポーツ紙まで。現役時代からの癖ですね。 それが終わると、雑誌コーナーで週刊誌を読みふける。 昼は自宅に一度戻るか、近くの蕎麦屋で済ませます。 午後はまた図書館で、新書や歴史小説を読み、夕方に帰宅する。 ほぼ毎日、この繰り返しです。どんなにいても、無料ですからね」
この数ヵ月で読んだ本は数え切れないといい、この年になってさまざまな知識を吸収することに充実感を覚えていたそうです。 そして何より、妻・洋子さんとの間に流れる気まずい空気を回避するのにも、図書館通いはもってこいだったといいます。
「家に一日中いると、妻がイライラしているのが伝わってくるんです。 私がリビングでテレビを見ていると、掃除機をかける音がやけに大きかったり、ため息をつかれたり。 私も手伝おうとしたんですよ。しかし『余計に時間がかかるからやめて』と……」
居心地の悪さを感じ、図書館を避難場所にしていた木村さん。 しかし、そのささやかな居場所でさえも、脅かされる事態が起きます。 先日、洋子さんから真顔でこう告げられたのです。
「あなた、毎日図書館に行くの、やめてくれない?」
理由を聞くと「近所の人に、木村さんのご主人、毎日図書館にいらっしゃるわね」と言われて恥ずかしいからだといいます。
「家にいたらいたで『どこか行ってくれないか』というオーラを出され、やっと見つけた居場所でさえ、行くなと言われる。 どうしたらいいんですかね、私は……」