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65歳の壁。「遺族厚生年金」と「老齢厚生年金」の併給調整
田中さんのケースは、65歳以降の年金の「併給調整」という複雑なルールを知らなかったために起こる誤解の典型例です。
田中さんが受給していた「中高齢寡婦加算」は、65歳になると支給が終了します。これは、65歳から田中さん自身の「老齢基礎年金」が満額(加入期間による)で支給されるようになるためです。
問題は、「遺族厚生年金」と、田中さん自身の「老齢厚生年金」の関係です。 65歳になるまでは、この2つは「どちらか高い方を選択」するのが基本でした。しかし、65歳になるとルールが変わります。
まず、自身の「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取ります。その上で、「自分自身の老齢厚生年金」の額と、「夫(故人)の遺族厚生年金」の額を比較します。
■ パターンA
自分の老齢厚生年金が遺族厚生年金と等しいか、上回る場合。 この場合、遺族厚生年金は全額支給停止となります。 幸子さんは、自身の老齢厚生年金(月8万円)が遺族厚生年金(月6万円)を上回ったため、このパターンに該当し、遺族年金がゼロになりました。
■ パターンB
自分の老齢厚生年金が遺族厚生年金を下回る場合。 この場合は、自身の老齢厚生年金は全額受給し、遺族厚生年金との差額が、遺族厚生年金として支給されます。
田中さんは、2つの年金が単純に「足し算」されると期待していましたが、実際は「比較と調整」が行われるのが65歳以降のルールです。
女性は出産や育児でキャリアが中断したり、パートタイムで働いたりした期間が長かったりと、自身の老齢厚生年金が低くなる傾向があります。その場合、パターンBに該当し、差額分の遺族年金が支給され続けるケースも少なくありません。
いずれにせよ、「知らなかった」では済まされないのが年金です。自身の年金見込額がいくらで、65歳以降にどのパターンに該当するのか、年金事務所や「ねんきんネット」で早めに確認しておくことが必須となります。
[参考資料]
日本年金機構『遺族基礎年金』、『遺族厚生年金』