定年退職で手にするまとまった退職金をどう活用するかは、老後の生活を左右する重要な問題です。しかし、その大切な資金の使い道をめぐり、夫婦間で認識のズレが生じるケースは少なくないようです。
 「肩の荷が下りました」と安堵の60歳夫、〈退職金2,500万円〉で定年退職。しかし翌月、妻が発見した「謎の振込先」に「あなた、嘘でしょ?」と顔面蒼白のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金の使い道、「相談なし」が招く夫婦の亀裂

中央労働委員会『令和5年賃金事情等総合調査』によると、大企業/大学卒の平均定年退職金は2,139.6万円。東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』によると、中小企業/大学卒の平均定年退職金は1,091.8万円です。一郎さんの金額は大企業の平均的な水準を上回り、まさに老後は安泰といったところ。

 

問題は、その使い道です。アドバイザーナビ株式会社が2023年に実施した調査では、退職金の使い道として「一部を資産運用に回している」と回答した人は約47%に上り、「全額預金」の38.9%を上回っています。また、株式会社 Japan Asset Managementが2024年に行った調査でも、退職前後の人の6割以上が新NISAを活用していると回答しており、一郎さんのように退職金を元手に資産運用を始めること自体は、決して珍しいことではありません。

 

しかし、今回のケースの最大の問題点は、それを妻の和子さんに「相談なく」進めてしまったことです。定年退職は、夫だけでなく妻にとっても大きなライフイベントの変化であり、夫婦関係の大きな岐路となり得ます。株式会社ハルメクホールディングスの「ハルメク 生きかた上手研究所」が2024年9月に50~79歳の既婚男女600名を対象に行った「夫婦関係に関する調査」によると、夫婦関係の満足度(「満足」「やや満足」の合計)は66.3%。2021年の調査と比較すると、男女ともに60代で10ポイント以上低下しています。

 

さらに「離婚を考えたことがある」と回答した人の割合は、女性の60代では54%と半数を超え、全年代で最も高くなっています。離婚を考えたきっかけとして、自由回答では「退職を機に」という声や、「定年退職してから少しの間、ずっと一緒に居たくなかった」といったコメントも寄せられており、一郎さん夫婦の状況と重なります。

 

この調査では、夫婦関係の満足度が高い「仲良し夫婦」と満足度が低い「不仲夫婦」を分ける要因についても分析。その差は「会話の時間」に顕著に表れており、休日の場合、仲良し夫婦の会話時間(平均169分)は、不仲夫婦(平均64分)の2.6倍に達していました。

 

「確かに、一緒にいる時間が多くなって、少し煩わしさを感じていました。だからつい、言うべきことを言わずにいた。私の行動はマズかったと、猛省しています」

 

[参考資料]

中央労働委員会『令和5年賃金事情等総合調査』 東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』

アドバイザーナビ株式会社『【退職金の使い方は?】退職金を運用に回している方は全体の約47%』

株式会社 Japan Asset Management『<インフレ時代の退職金運用やライフスタイルに関する意識調査>退職後の収入減少やインフレによる貯蓄の目減りの不安から、6割以上が新NISAを積極的に活用。今後は海外投資への関心が上昇。』

株式会社ハルメクホールディングス/ハルメク 生きかた上手研究所『【夫婦関係に関する調査2024】夫婦満足度は66%。2021年から60代が10ポイント以上低下 会話時間は仲良し夫婦と不仲夫婦で2.6倍の差』