豊かな自然や子育て環境を求め、地方移住を選ぶ人は増えています。一般に健康的と捉えられがちですが、生活環境の変化が深刻な運動不足を招く「落とし穴」も。都市部ではインフラ上「歩かされる」一方、車社会の地域では「無意識の運動」がゼロに近くなることも。ある男性のケースをみていきます。
「コンビニも回覧板も車」の日常。地方移住3年で激変した41歳、同僚が絶句した「車社会の落とし穴」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「気づかなかった…」3年ぶりの再会で絶句した同僚の姿

都内のIT企業に勤める佐藤拓也さん(41歳・仮名)は先日、3年ぶりに再会したかつての同僚の姿に言葉を失ったといいます。 その同僚とは、木村良平さん(41歳・仮名)。 3年前に「子育て環境を一番に考えたい」と、佐藤さんたちも勤める会社を退職。 その後、妻の田舎のある地方に移住し、地元の企業に転職したと聞いていました。

 

「義実家の敷地内に一軒家を建てて、敷地内同居をすると言っていました。義実家に近いほうが奥さんは助かるし、子どもたちも喜ぶだろうと。家を建てても、東京の5分の1~7分の1だそうで。木村さんの給与は月45万円ほどで、転職に際し給与は3割ほど減ると言っていたけど、それでも『家計がラクになる』と喜んでいたのが印象的です」

 

そんな木村さんから、「出張で東京に行くから、久しぶりに飲まないか」と連絡が入り、当時の同僚含めて4人ほどで集まることになったそうです。 集合場所は、当時、よく行っていた居酒屋の前だったそうですが――。

 

「『1、2分遅れそう』と連絡をしたら、『了解!』と返信があったので、すでに店に着いていると思って、みんなで急いで行ったんです。でも入口に木村の姿はなくて。『もう店に入っているのかな』と思って店に入ろうと思ったら、突然『おー、久しぶり!』と声をかけられたんです」

 

佐藤さんに話しかけてきたのは、大柄の男性。 いきなり見知らぬ人に声をかけられ、ビックリしていると、何やら様子がおかしいことに気づいたそうです。

 

「大男の顔を凝視して、やっとわかりました。こいつが木村だと。以前は身長が高くて、スラっとしていて、いかにもスポーツマンという印象だったのに……」

 

木村さんは明らかに「激太り」。 顔はパンパンに膨れ上がり、首回りはスーツの襟に肉が乗っている。 お腹も妊婦のように突き出ていて、スーツのジャケットもスラックスもパツパツでした。 正直、目の前にいても、声をかけられなければわからなかったほどです。 同僚たちも言葉を失い、最初は健康面を心配する言葉をかけるのが精一杯だったそうです。 地方移住から3年。一体、彼の身に何があったのでしょうか。 木村さん本人も、その変貌ぶりを自覚していたそうです。

 

「『いやあ、めちゃくちゃ太っちゃって。自分でもヤバいと思ってるんだけど』と苦笑いしていました。理由を尋ねると、答えは明確で、圧倒的な運動不足と、食生活の変化でした」

 

木村さんが移住した地域は、冬は雪が積もる地域で、完全な車社会。 出勤は車、買い物も車。 隣近所は離れているから、回覧板を届けに行くのでさえも車だそうです。 東京で働いていたころは、自宅から最寄り駅まで歩き、駅の階段を上り下りし、乗り換えでも歩く……というように、意識せずとも毎日数千歩は歩いていました。

 

「最寄りのコンビニも車で10分ほど離れているから、基本的に「歩く」ことがないそうです」

 

さらに追い打ちをかけたのが、地方ならではの「食の魅力」でした。

 

「奥さんのご実家が農家ということもあり、新鮮な野菜や美味しいお米が常に手に入るとか。お裾分けで、近所から新鮮な魚や肉をもらうことも多いそうです。『とにかく食べ物は全部うまい!』と、木村はニコニコです。結果、毎晩の晩酌が進み、ご飯のおかわりも止まらない。運動量はゼロ近くになったのに、摂取カロリーだけが激増したわけです」

 

「幸せ太りが遅れてやってきた」と豪快に笑う木村さんには、かつて、東京で働くビジネスパーソンという雰囲気はゼロでした。 それでも「激太り」の原因がストレスではなくてよかったと、かつての同僚たちは安堵したそうです。