(※写真はイメージです/PIXTA)
まさか自分が…老後資金が消えた「悪夢」
添田浩一さん(69歳・仮名)。地方公務員として40年弱。さらに定年後は短時間の再任用職員として65歳まで働いてきました。手元には3,000万円ほどの貯蓄、そして月20万円ほどの年金。夫婦2人、贅沢はできなくても、穏やかな生活を送るには十分だと考えていたといいます。
「現役時代は仕事一筋で、家のことは妻に任せっぱなしでした。たくさん苦労をかけてきたから、これからは妻ともゆっくりしたいと話していたところでした」
添田さんは堅実な公務員生活で培った金銭感覚もあり、ギャンブルや大きな買い物に手を出す性格ではありません。老後は、趣味のガーデニングや地域のボランティア活動を楽しみながら、穏やかに暮らしていくという、そんな青写真を描いていました。
家計も、生活費用の口座、貯蓄用の口座が2つ、緊急用の口座と、4つに分けて管理していました。基本的に生活費用の口座以外は日常使いはしない、貯蓄用と緊急用の口座は基本的に手をつけない、を徹底していました。
しかし、その計画は、ある日を境に脆くも崩れ去りました。きっかけは、スマートフォンで閲覧していたニュースサイトの広告でした。「元公務員・教職員限定の特別資産運用」という文字が目に留まったのです。
「最初は、よくある怪しい投資話だろうと無視していました。ですが、『堅実なキャリアを歩んでこられた方のための、元本を保証する安全なプラン』といった言葉が続き、少し興味を持ってしまったんです」
クリックした先のサイトには、退職金を堅実に運用し、年金にプラスアルファのゆとりを生み出すといった内容が並んでいました。資料請求をすると、すぐに丁寧な口調の担当者から電話がかかってきました。
「『添田様のような、社会的信用の高い元公務員の方だけに、優先的にご案内しています』と言われ、悪い気はしませんでした」
物価高がニュースをにぎわし始めていたころです。貯金しているだけでは将来的に資産は目減りするだけと、耳にすることが多く、年金生活下でも資産運用の必要性を感じていたタイミングに、ちょうど合ってしまった――悲劇の始まりです。
最初は「お試しで」と30万円だけ振り込んだところ、翌月には約束通り、数千円の配当が振り込まれたといいます。この「実績」が、添田さんの警戒心を解いてしまいました。担当者からは、「もっと大きな枠が空いた。今がチャンスだ」などと、巧みな言葉で追加の投資を勧められました。
「『元本が保証されるなら』と、退職金口座から100万円、また100万円と送金してしまいました。冷静に考えればおかしいのですが、その時は『老後がさらに安泰になる』としか考えていなかったんですよね」
半年間で添田さんが送金した額は、合計で1,000万円近くに達していました。ある日、いつものように担当者に電話をかけると、「現在使われておりません」という無機質な音声が流れるだけでした。関連するウェブサイトもすべて閉鎖されていました。「貯蓄用の口座」、改め、「資産運用のための口座」のひとつに入っていたお金はほぼゼロになりました。
「うまい儲け話に乗るなんてこの世にないと、自分でもわかっていたはずなのに……」
もう1円も残っていないような貯金通帳を眺めながら、気が付けばあたりは真っ暗。ただ情けなく、ただ泣くしかなかったといいます。