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繰上げ受給で年金減額、生涯続く
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金の新規裁定(受給権が発生した人)のうち11.7%が繰上げ受給を選択しています。
老齢年金は、原則65歳から受給開始ですが、希望すれば60歳0ヵ月から64歳11ヵ月までの間に繰り上げて受け取ることが可能です。
ただし、1ヵ月早めるごとに受給額は0.4%減額されます。60歳0ヵ月まで最大限繰り上げると、減額率は24%となります(昭和37年4月1日以前生まれの場合は減額率0.5%、最大30%減)。最も注意すべき点は、この減額率は生涯続き、一度繰上げを選択すると、後から変更したり取り消したりすることは一切できないということです。
そのような注意点がある繰上げ受給ですが、選択しても後悔しないのは、「早く年金を受け取りたい理由が明確で、減額されても将来にわたる家計の見通しが立っている人」。健康上の不安がある、経済的に余裕がない、他に十分に資産がある、減額分をほかの方法で補う見通しが立っている――一方で、長期的なライフプランを立てていない人や、健康で長生きする可能性が高い、感情的な理由で決めた人などは、繰上げ受給を選択して後悔しがち。
健一さんのケースであれば、親が90歳近くにもかかわらず介護負担をしっかりと考えていなかった、見通しの甘さが目立ちます。十分にリスクを把握し、万一の場合はどれほどコストがかかるものなのか、親が元気なうちにしっかりと話し合っておいたら、こんなにも不安に思うことはなかったはずです。
公益財団法人 生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査』によると、介護にかかる月々の費用は平均9.0万円、介護期間は平均約5年。しかし、これはあくまでも平均値であり、介護期間が10年を超えるケースも。そのような場合は、想定よりも倍の介護費用を覚悟しなければなりません。
老後生活では、介護以外にも、自身の医療費の増加や住まいの修繕など、予期せぬ支出が起こり得ます。年金の繰上げ受給は、長期化する老後(長寿化リスク)において、生涯にわたって減額された年金を受け取り続けるというリスクを伴う選択であることを、改めて認識する必要があります。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』
日本年金機構『年金の繰上げ受給』
公益財団法人 生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査』