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子の7割が親の運転に「不安」。しかし「話し合いなし」が6割の現実
健一さんのような悩みは、決して珍しいことではありません。高齢ドライバーによる交通事故が社会問題化するなか、その親を持つ40代から50代の子世代は深刻なジレンマを抱えていることが、株式会社トータスが実施した『親の自動車免許の返納に関する子世代の意識・実態調査』(2025年10月実施)で明らかになりました。
調査によると、70代以上の親が現在も運転している割合は、「日常的に」(35.7%)と「時々」(14.5%)を合わせ、合計50.2%に上ります。70代以上の半数が、今もハンドルを握っている実態があります。
こうした親を持つ子世代(全体の50.2%)に対し、「親の運転に不安を感じるか」と尋ねたところ、「非常に不安」(18.9%)と「やや不安」(53.5%)を合わせ、実に72.4%が何らかの不安を抱いていることが判明しました。
加齢による能力の低下は避けられません。親自身が「大丈夫」と過信していても、子はヒヤリとする瞬間に気づき、不安を募らせています。
しかし、驚くべきことに、これほどの不安とは裏腹に、具体的な行動には結びついていません。同じ対象者に「免許返納に向けて現在行っていること」を尋ねると、「特にない」という回答が70.9%にも上りました。不安を感じている層(72.4%)と、行動していない層(70.9%)がほぼ重なるという、この深刻な「ギャップ」は、問題の根深さを示しています。
行動の第一歩は「話し合い」ですが、そのハードルが極めて高いことも分かりました。親が運転している人のうち、「親と運転や免許返納について話したことがあるか」との問いに、「ない」と答えた人は58.6%と、約6割に達しています。
なぜ、これほど不安なのに話し合えないのでしょうか。その障壁(「特にない」33.3%を除く)として最も多かった回答は、「免許返納後の生活イメージが湧かないこと」(31.8%)でした。
まさに昭雄さんが叫んだように、公共交通が衰退した地方や郊外において、自動車は買い物、通院といった最低限の生活を維持するための「命綱」です。代替手段(デマンドバス、宅配サービス、家族の送迎など)の確保に目処が立たない限り、子は強く返納を切り出せないのです。
次に多かった障壁は、「親のプライドや自尊心」(20.5%)という心理的な要因です。長年の運転キャリアは「自立」の徴でもあり、子からの返納の促しを「能力低下の宣告」と受け取ってしまうケースも少なくありません。
もし返納が実現した場合、子世代が最も不安に感じていることも調査しています。1位は当然ながら「移動手段の確保」(46.6%)。しかし、注目すべきは2位以下です。2位「親の活動意欲の低下」(18.6%)、3位「親の生活の質の低下」(16.2%)が続きました。移動の自由を失うことは、趣味や友人との交流、地域活動といった社会との接点を失うことにつながりかねません。子が恐れているのは、事故のリスクだけでなく、返納によって親が生きる活力を失い、心身の虚弱(フレイル)が進んでしまうことでもあるのです。
高齢者の免許返納は、「危ないから取り上げる」などと、単純には解決できません。この問題を個々の家庭内の努力(=子の説得)だけで解決するには限界があります。返納後の移動手段の確保というインフラ整備と、運転に代わる生きがいや社会参加の機会の提供……その両方を社会全体で設計していく必要性があります。
[参考資料]
株式会社トータス『自動車を運転している70代以上の親を持つ40代~50代の男女の約7割が、その運転に不安を感じている!株式会社トータスが「親の自動車免許の返納に関する子世代の意識・実態調査」を実施!』