港区のタワーマンション――。その甘美な響きに、高揚感を覚える人は多いでしょう。都心の高層階から望むパノラマ、眼下に広がる眩い夜景……そんな非日常空間は、経済的な成功の象徴ともいえます。特に近年、再開発が進む虎ノ門・白金・湾岸エリアを中心に3億円を超える物件も珍しくなくなった都心タワマン。その購入層に多いのが、パワーカップルです。彼らにとってタワマンは、単なる住まいではなく、「資産形成」の重要な一手とも考えられています。現役時代は利便性の高い都心で暮らし、リタイア時には購入価格を上回る値段で売却、豊かな老後資金を得る――。もしこのシナリオが確実に実現するなら、これほど魅力的な投資はないでしょう。しかし現実には、誰もがそう上手くいくわけではないようです。ある夫婦の事例を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が紹介します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
〈手取り月90万円の30代夫婦〉貯金を全部突っ込んで“1億円超えタワマン”購入。上から下まで見える東京タワーの煌めきに魅せられるも…“回覧板”で知った「ヤバすぎる事実」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

ペアローンの本当のリスク

その矢先、妻Bさんの妊娠が判明しました。夫婦で驚き喜びましたが、それも束の間、すぐに現実的な不安が頭をもたげます。

 

「産前産後に2年くらい休む予定だったけど、無理そうだね……」と妻Bさん。喜びの報告と同時にそんな不安を感じさせたことに、夫Aさんは悲しい気持ちです。

 

Bさんが公認会計士としてフルタイムで働くことで、世帯年収2,000万円が成り立っていました。しかし、出産・育児休業に入れば、Bさんの収入は育児休業給付金(当初は月収の67%、その後50%)に激減します。世帯手取りが現在の月90万円弱から、60万円にまで落ち込む可能性があるのです。 月50万円の住居関連支出は、そのまま継続されます。

 

「残りの10万円で、これから生まれてくる子どもと3人で、どうやって生活していくの……」 Bさんは、悪阻で体調が優れないなか、キャッシュフローの急激な悪化という現実に直面し、不安で眠れない夜を過ごすようになりました。

 

「マンションは売るしかないのか、だとしたら早く売るべきではないのか」夫Aさんはそう考えるようになりました。

2030年代の「時限爆弾」

そして、彼らの不安を決定的にする「時限爆弾」の存在が明らかになります。管理組合の電子回覧板の総会資料にあった、「長期修繕計画の見直しについて(第一報)」というレポートです。

 

そこには、タワーマンションのもう一つの大きな課題である「大規模修繕の難易度」が記されていました。数百戸単位の超高層建築では、外壁補修やエレベーター更新に巨額の費用がかかります。特に超高層用の足場や特殊なゴンドラ、高性能エレベーターの交換費用は、一般的なマンションの比ではありません。レポートは、彼らのマンションが2030年代に迎える最初の大規模修繕について、こう警告していました。

 

「昨今の資材高騰、人手不足を鑑みると、当初の積立金計画では費用が不足する可能性が極めて高い」

 

新築分譲時に修繕積立金は意図的に安く設定され、5年ごと、10年ごとに段階的に引き上げられる「段階増額積立方式」が多くの物件で採用されています。Aさん夫妻の月3万2,000円という積立金も、10年後には月6万円、15年後には月8万円に跳ね上がる計画になっていました。

 

「ネットで読んだことそのままだ……」とAさんは諦めに近い心境です。

 

レポートは続けます。

 

「積立金が不足すれば、修繕一時金として、一戸あたり数十万円から百万円単位の追加徴収、あるいは修繕積立金のさらなる大幅な値上げが想定されます」