港区のタワーマンション――。その甘美な響きに、高揚感を覚える人は多いでしょう。都心の高層階から望むパノラマ、眼下に広がる眩い夜景……そんな非日常空間は、経済的な成功の象徴ともいえます。特に近年、再開発が進む虎ノ門・白金・湾岸エリアを中心に3億円を超える物件も珍しくなくなった都心タワマン。その購入層に多いのが、パワーカップルです。彼らにとってタワマンは、単なる住まいではなく、「資産形成」の重要な一手とも考えられています。現役時代は利便性の高い都心で暮らし、リタイア時には購入価格を上回る値段で売却、豊かな老後資金を得る――。もしこのシナリオが確実に実現するなら、これほど魅力的な投資はないでしょう。しかし現実には、誰もがそう上手くいくわけではないようです。ある夫婦の事例を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が紹介します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
〈手取り月90万円の30代夫婦〉貯金を全部突っ込んで“1億円超えタワマン”購入。上から下まで見える東京タワーの煌めきに魅せられるも…“回覧板”で知った「ヤバすぎる事実」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

タワマン節税改正のあおり

翌年、マンションの維持費を甘くみていた夫婦に、固定資産税・都市計画税の納税通知書が届きました。そこに記載されていた年税額を見て、2人は絶句。なんと約70万円と記載されていました。

 

港区エリアの地価は、再開発の進展により高騰を続けています。彼らが購入したのは25階の部屋でした。2024年1月から施行された、いわゆる「タワマン節税」防止のための固定資産税ルール改正(高層階ほど税額が高くなる)が、節税目的ではない住民に重くのしかかります。評価額が市場実勢価格を反映する形で引き上げられ、高層階の税負担は以前より格段に重くなっているのです。

 

固定資産税の評価額は、3年ごとに見直されます。港区のような地価上昇が著しいエリアでは、この見直し(評価替え)のたびに、評価額が引き上げられる可能性が極めて高いのです。自治体がエリア全体の再評価を行うことで、築10年未満の物件であっても、容赦なく増税の負担が生じることがあります。 

 

「資産性の高さは維持費の高さでもあるのか……」とAさんは恐怖を覚えました。

「資産性の高さ」の虚しい机上論

「大丈夫、いざとなれば売ればいい。港区のタワマンなら、買った値段より高く売れるはず!」 購入時、夫婦はそう信じていました。

 

違うFPにセカンドオピニオンを依頼したところ、衝撃的な結果となりました。結論からいうと、このまま現在のタワーマンションに住み続けると、老後は家計破綻するようです。高収入の仕事をしていても、収入は住宅費に湯水のごとく消え、資産運用に使えるお金も乏しく、退職金をもらっても維持費にお金が消えていくことになるとのこと。

 

当初の計画どおり、「資産性の高いマンション」を売却したら、老後資金の足しになるのではないかとFPに質問しましたが、定年退職を迎える前に家計破綻してしまうため、売却以前の問題であると指摘されました。

 

「子供を持つことはできますか?」と妻Bさんが不安そうに聞きます。しかし、答えは非情なもの。

 

「いまのままでは無理です。家計破綻を早めるだけでしょう」

 

売却しなければ資産性のメリットを享受できないのがマンションという資産です。売却前にすでに家計が破綻しているのであれば、資産というよりも浪費だったということになります。