港区のタワーマンション――。その甘美な響きに、高揚感を覚える人は多いでしょう。都心の高層階から望むパノラマ、眼下に広がる眩い夜景……そんな非日常空間は、経済的な成功の象徴ともいえます。特に近年、再開発が進む虎ノ門・白金・湾岸エリアを中心に3億円を超える物件も珍しくなくなった都心タワマン。その購入層に多いのが、パワーカップルです。彼らにとってタワマンは、単なる住まいではなく、「資産形成」の重要な一手とも考えられています。現役時代は利便性の高い都心で暮らし、リタイア時には購入価格を上回る値段で売却、豊かな老後資金を得る――。もしこのシナリオが確実に実現するなら、これほど魅力的な投資はないでしょう。しかし現実には、誰もがそう上手くいくわけではないようです。ある夫婦の事例を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が紹介します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
〈手取り月90万円の30代夫婦〉貯金を全部突っ込んで“1億円超えタワマン”購入。上から下まで見える東京タワーの煌めきに魅せられるも…“回覧板”で知った「ヤバすぎる事実」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

ライフプラン上はいますぐ売却したほうが得策らしい

そんなある週末の夜。夫婦は自宅のリビングで夜景を眺めながらルイボスティを飲んでいました。

 

「私たち、なんのためにこの眺めを買ったんだろうね」 妻Bさんの声はひどく疲れていました。

 

「見栄、だったのかもしれないね……」 夫Aさんは自嘲気味に答えます。

 

「世帯年収2,000万円なら、港区のタワマンくらいじゃないと格好がつかない、って。どこかで思い込んでいた気がする。以前のように賃貸マンションに住むか、もっと身の丈に合ったマンションを考えよう」

 

夫婦はFPに再度相談し、マンションの売却を検討することに。購入からわずか一年での売却です。

 

FPは「購入後1年で売却する場合、5%以上値上がりしなければ損益はほぼトントン」と指摘。一方で5%値下がりすれば、諸経費を含めて約1,200万円の損失になる計算でした

 

※仲介手数料・登記費用・ローン諸費用・売却時仲介手数料等を合算した売買往復コストがおおむね6〜8%という前提

 

それでもいまのままでは家計破綻が避けられないため、「損失を受け入れてでも早期売却すべき」との結論に至りました。幸い、ギリギリ損失が出ない条件で売却に成功しましたが、ブランド立地でなければ大きな損失となったかもしれません。

 

ブランド物件購入前に欠かせない視点

港区タワマンのようなブランド物件を検討する際には、下記のような視点が不可欠です。

 

〇資産価値よりも固定費の未来予測を徹底的に試算すること。

〇管理費・修繕費の「長期修繕計画」を取り寄せ、将来どれだけ値上がりするかを確認すること。

〇固定資産税の再評価リスクも織り込み、最悪のケースを想定したキャッシュフローを試算すること。

〇物件が高騰するなか、ペアローン利用が自然になっている昨今ですが、リスクを正確に理解すること。

 

収入減少や出産、病気による休職や退職を前提としてキャッシュフローを考えましょう。特に女性の場合、体力面の事情もあり、定年退職まで正規雇用で就労する人はごく少数である事実を理解したほうがよさそうです。できることであれば、世帯主の単独ローンにし、自己資金を増やすことで借入額の審査に対応すべきです。

 

資産性という言葉に惑わされ、足元の家計のキャッシュフロー破綻を計算できていない世帯が多いのが現状です。ブランドマンションの維持費は高額です。それが今後さらに上昇していくと考えて不自然ではないでしょう。家計の専門家に正確なキャッシュフローを試算してもらいながら、購入の検討を進めてください。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表