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「8050問題」の現実…中高年のひきこもりは珍しくない
井上さん夫妻のように、成人した子どものひきこもりに悩みながらも、世間体を気にして問題を抱え込んでしまうケースは、決して特別なことではありません。
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査』によると、15歳から64歳までのひきこもり状態にある人は全国で推計146万人です。そのうち、40歳から64歳の中高年の割合は全体の約半数を占めることが明らかになりました。また2019年の調査では、中高年ひきこもりの約3割が10年以上の長期にわたるひきこもりであることが示されています。
中高年のひきこもりの主なきっかけは、退職・失業、職場の人間関係、病気が上位を占め、健太さんのケースと重なります。問題が長期化すれば、親も高齢化していきます。親が80代、子が50代になってもひきこもり状態が続き、生活が立ち行かなくなる「8050問題」は、こうした中高年のひきこもりの延長線上にある深刻な社会問題です。
井上さん夫婦のように、「エリート」と見られてきた人ほどプライドが妨げとなり、外部への相談をためらいがちです。しかし、問題を家庭内だけで解決しようとすれば、親子共倒れになりかねません。重要なのは、孤立を避けること。現在、「ひきこもり地域支援センター」が全国の都道府県・指定都市に設置されています。ここでは、専門の支援コーディネーターが、本人だけでなく、家族からの相談にも無料で応じています。
世間体やプライドよりも、家族の将来を守ること。まずは勇気を出して、こうした公的な窓口にアクセスすることが、閉ざされた状況を打開する第一歩となります。
井上さん夫婦の場合、ある日、健太さんが夜中に外出しているところを、たまたま近所の人が目撃。たちまち周囲に知られることになったといいます。
「逆に、それで吹っ切れました。周囲の目を過剰に意識することが、自分本位だったか……本当に反省しています。今は息子が社会復帰できるよう、専門家と一緒になって少しずつ前進しているところです」
[参考資料]
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査』