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「こんなはずでは…」38年間の教員生活の果てに待っていた現実
内田浩さん(66歳・仮名)は、38年間にわたり公立中学校の教員として勤め上げ、定年後は65歳まで再任用で教壇に立ち続けました。退職金もまとまった額を手にし、年金を受け取りながらの引退後の生活を楽しみにしていました。
現役時代の計算では、65歳から受け取れる年金は基礎年金や厚生年金を合わせて月額22万円ほどになる見込みでした。それだけでは決して贅沢ができるわけではありませんが、ローン完済済みの持ち家もあり、妻と二人で穏やかな老後を過ごすには十分だと考えていたのです。
しかし、現在の内田さんの年金額は、額面で月16万円ほど。想定していた額よりもずいぶんと少ないものです。
「本当に、こんなはずではなかった。真面目に勤め上げて、ようやく自分の時間が持てると思った矢先でしたから」
内田さんの計画が大きく狂ったのは、65歳で完全に職を離れた直後、妻から切り出された「離婚」でした。
「もともと、些細な価値観の違いはありました。衝突することもあった。でも、子どもたちが独立してからの、夫婦生活は穏やかだったと思うんです。しかし妻はずっと離婚を考えていた。私にとってはまさに青天の霹靂でした」
話し合いは平行線をたどり、最終的には調停離婚が成立。その際、長年の婚姻期間を経て築いた財産は、厳密に分割されることになりました。退職金はもちろん、それまでの預貯金も財産分与の対象となり、内田さんの手元に残った額は想定を大きく下回りました。
そして、老後の生活設計に最も大きな打撃を与えたのが「年金分割」です。
「制度自体は知っていましたが、どこか他人事でした。いざ自分が対象になると、その重みを痛感しました。私の厚生年金は、婚姻期間中の分が分割対象となり、結果として受給額が大幅に減ってしまったのです」
内田さんのケースでは、月額15万円程度あった厚生年金部分が分割され、基礎年金と合わせても月16万円ほどの受給額となりました。
「月16万円。手取りにすると月14万円強。1人で生きていくには十分だろうと周りは言うかもしれませんが、思い描いていた『悠々自適』とは程遠い生活です」
家事はほとんどしてこなかったというだけあり、食事は出来合いの総菜を買ってくるのが定番となり、値引きシールが貼られるのを狙う毎日です。
「毎日、争奪戦ですよ。たまに肉を焼くくらいのこともしますが、高いですよね……昔は値段を気にせず買っていたのに、今では値段とにらめっこ。肉料理は週に1回あればいいほうです。こんな老後を迎えるなんて、本当に惨めな気持ちになりますよ」