60代を迎え、夫が定年。年金生活が始まると、多くの世帯が家計の現実に直面します。「年金だけではお金は足りない。老後は大丈夫なんだろうか……」という漠然とした不安が、それまでの家計管理や夫婦の在り方の見直しを迫ることも少なくありません。老後の家計の現実と課題をみていきます。
今さら働けなんて…〈年金月18万円〉65歳夫の身勝手な一言。63歳専業主婦、40年ぶりに「ハローワーク」へ向かう (※写真はイメージです/PIXTA)

平均的な高齢者夫婦……毎月「3万4,058円」赤字の現実

総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における税金や保険料を差し引いた可処分所得は平均月22万2,462円。対し、消費支出は平均月25万6,521円で、赤字額は平均月3万4,058円となります。

 

浩一さんの年金が月18万円だとしたら、手取り額はおおよそ16万5,000~17万円前後。平均的な暮らしを送るなら、当面は月8.5万円程度の取り崩しが必要になる計算です。佳子さんも年金を受け取り始めても、月2万円ほどの赤字になる計算。切り詰めて、収入内で生活していくか、または貯蓄を取り崩していくかの2択。そこに「働いて収入を得る」という新たな選択肢があれば、確かに老後の家計は安定するでしょう。

 

実際、佳子さんのように、定年期を迎えてから新たに仕事を探す女性は珍しくありません。内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、女性の就業者の割合は、60~64歳で63.8%、65~69歳で43.1%、70~74歳で26.4%。60代では半数が、70代前半でも4人に1人は働いています。長寿化、そして老後不安の増大により、高齢女性の就業率は、今後ますます増えていくとみられています。

 

ハローワークを訪れた佳子さん。40年というブランクに不安を感じていましたが、窓口の担当者は「長年の主婦経験は立派なキャリアですよ」と励ましてくれました。特に毎日家族のために作ってきた料理の腕と段取りの良さに着目し、地域の高齢者向け配食サービスセンターでの調理補助という仕事を紹介されました。

 

「私にも、まだできることがあるんだと嬉しくなりました」

 

夫・浩一さんの身勝手なひと言がきっかけでしたが、佳子さんのセカンドライフはうきうきとした気持ちと共にスタートしました。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』

内閣府『令和6年版高齢社会白書』