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父の死、進路変更…そして「月3万2,000円の返済」という現実
そんな矢先、3年生の1月に父が他界。深夜1時に母からの電話があり、夜行バスで地元へ向かった。本当に突然のことだった。
葬儀費用は少額の保険金でまかなえたものの、母の生活に余裕はない。Aさんは母を支えるため、地元へ戻って就職する決断を下した。
しかし、そこでAさんは厳しい現実に直面する。地元での女性の初任給は平均21万円、手取りにすると約17万円。男性と比べても昇給の見込みは乏しい。そのうえ、月3万2,000円の奨学金の返済が重くのしかかる。
「どうやって生きていけばよいのか」──Aさんは絶望を覚えた。
また、祖父母はまだ元気だが、80歳近くになり、将来的な介護の心配もある。そうした現実を踏まえ、激務が予想される出版や新聞社は諦めざるを得なかった。時間や場所にとらわれず柔軟に働ける業界や職種のほうが望ましいと考え、安定性があり、給与水準が高く福利厚生が充実している、大手メーカーの支店に就職。初任給は23万円、手取りは19万円だった。
昨年10月から月3万2,000円の返済が始まったが支払いきれず、減額制度を利用して月2万円に下げてもらった。しかし、その分返済期間は延長され、完済は55歳になる予定だ。
今年から住民税の負担も増え、物価高も重なって、生活は一層厳しいという。SNSでは「奨学金を借りている人とは結婚したくない」という投稿を目にし、自分の将来に対する不安は募るばかり。仮に結婚相手も奨学金を背負っていた場合、二人で1,000万円近く返すことになるのではないだろうか。「一人で生きていくにしても、結婚するとしても、暮らしていくのは苦しすぎる」──Aさんは、「あのとき、軽い気持ちで奨学金を借りたことを後悔している」と悔やんでいる。
学生たちの金銭的な不安
マイナビキャリアリサーチLabが2024年7月に発表した調査「2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<奨学金について>」によると、奨学金を借りている学生は36.9%に上る。そんななか、奨学金の返済が企業選択に影響を与えた学生は22.2%達し、社会人になったあとに返済が心身の負担になるケースは少なくない。
実際、同年9月の別の調査「2026年卒 大学生キャリア意向調査8月<学生の働くイメージと不安>」では、社会に出て働くイメージを持てている学生は約半数にとどまっており、奨学金返済を踏まえて社会人人生を設計できている学生はそう多くはないと考えられる。
「社会に出て不安に思うこと」という問いには、約41%の学生が「金銭的なこと」と回答している。さらに、学生の感じる不安について調査したレポートでは、老後の貯蓄や景気、年金など、金銭面に関する長期的な目線での不安が多く挙げられていた。彼らが企業に安定性を感じるポイントとして、最も多かった回答が「福利厚生が充実していること」だったのは、こうした背景がある。