子どもにとって、「文字を読む」作業と「内容を理解する」作業を同時に行うのは、脳に大きな負荷がかかっています。読んだそばから内容が抜け落ちてしまうのは、この「ワーキングメモリ」の負荷が原因かもしれません。「読み聞かせ」は、親が「読む」作業を代行することで、子どもが「理解(心内表象化)」に集中できる最強のトレーニングです。本記事では、船津洋氏著『「地頭力」を鍛える子育て:自ら学び、考える力がアップする確かな方法』(大和出版)より、読み聞かせが子どもの「分かる力」を育てるメカニズムと、子どもの脳の働きを最大限に引き出す正しい読み聞かせについて解説します。
絵本を熱心に読み聞かせしていても…子どもの“理解する力”を奪う「親のNG行動」3つ (※写真はイメージです/PIXTA)

理解に集中させる最強の学習法「読み聞かせ」

ここで重要なキーワードは「ワーキングメモリ」です。ワーキングメモリとは「今やっていることを、一旦記憶にとどめておく能力」のことです。読むことと理解すること、この2つを同時に行うことはワーキングメモリにとっては大変な負荷がかかる作業です。ワーキングメモリが鍛えられていないと、読んだことが、読んだ先からスルスルと抜け落ちていくイメージになります。結局、「なんの話だっけ?」となるわけです。それでは意味がありません。

 

読む内容によっては、ワーキングメモリの負荷はずいぶん軽減されます。たとえば、絵本は絵が与えられているので、情景に関する心内表象化をする必要がありません。音韻符号化とストーリーや登場人物間の構造に注目する理解に集中できます。また、少し挿絵がついている程度の読み物も、未知語(意味を知らない初めてみる語)の推測や理解(心内表象化)に役立ちます。

 

物語などは説明文に比べて抽象度が低く、一般に筆者が心内表象化を容易にするような表現を駆使するので、これも教科書的な説明文よりはワーキングメモリの負荷が低いでしょう。最もワーキングメモリに負担をかけずに、脳が心内表象化の働きに特化できる読書は「読み聞かせ」です。「音韻符号化」を誰かに任せるわけですから、聞き手の子どもたちはその情景を思い浮かべること、あるいはストーリーの流れや登場人物の性格などの構造の記憶を保持しながら、次々と耳に入ってくる新しい情報の「理解」に集中できるのです。

 

言い換えれば、読み聞かせは聴覚からの心内表象化のトレーニングになります。これらの能力(心内表象化や音韻符号化)は反復によって自動化されます。聴解力が高い人は、ぼんやりと周囲の音声を耳にしているだけでも内容が理解できますし、同時に読む力に優れている人たち、我々も含め、文字を読むことはほぼ自動化されているので、ここにワーキングメモリを使うことはありません。

 

したがって、通常は読むといった意識はしないまま、内容の理解に集中できるのです。ただし、それは大人の話。ここでの対象の子どもたちは「読む」ことの自動化はできていても、「理解」の自動化ができていないと考えておくのが妥当でしょう。

 

聴覚からの心内表象化には、もちろん知覚力も関わってきます。その知覚力のベースを成すのは語彙力でした。読書量は語彙の豊かさと相関関係にあります。つまり読書量が多ければ多いほど、知覚・理解の両方に優れることになります。しかし、その入口の「聴解力」が育たないまま、「読解力」へ進ませようとすると、肝心の「理解力」が置き去りになってしまう可能性があるのです。

 

海外の映画などを見ていると、小学校中学年、あるいは高学年かとも思しき子どもたちに、親が本を読んで聞かせている場面に出会ったりします。耳からの理解力、つまり聞いた内容を心内表象化する能力の育成は、幼児期はもちろんのこと、小学生になっても有効なのです。