子どもにとって、「文字を読む」作業と「内容を理解する」作業を同時に行うのは、脳に大きな負荷がかかっています。読んだそばから内容が抜け落ちてしまうのは、この「ワーキングメモリ」の負荷が原因かもしれません。「読み聞かせ」は、親が「読む」作業を代行することで、子どもが「理解(心内表象化)」に集中できる最強のトレーニングです。本記事では、船津洋氏著『「地頭力」を鍛える子育て:自ら学び、考える力がアップする確かな方法』(大和出版)より、読み聞かせが子どもの「分かる力」を育てるメカニズムと、子どもの脳の働きを最大限に引き出す正しい読み聞かせについて解説します。
絵本を熱心に読み聞かせしていても…子どもの“理解する力”を奪う「親のNG行動」3つ (※写真はイメージです/PIXTA)

理解力を伸ばす脳のトレーニング

さて、それでは理解力を高める取り組みです。国語力についてはさまざまな研究が行われています。理解力に焦点を当てているものは限定的ですが、国語の成績と他の教科の成績との関係、あるいは国語の成績と、読む、書く能力などの関係の調査は多くあります。

 

調査の中には読書量と国語の成績の関係、幼児期の絵本の読み聞かせとその後の国語力の関係など興味深いものもあります。これらの研究から、読書量と国語の成績に関しては相関が観察されています。つまり、本をたくさん読めば国語の成績が高まる傾向にあるようです。

 

しかし、その他の調査を見ると、読書は確かに語彙力には大きな影響を与えるようですが、国語力そのものに対しては、読書の対象(ジャンル)が大きく影響するようです。絵本や小説でも語彙の強化は可能ですが、直接理解力の向上にかかわるジャンルは、説明文であるという報告もあります。読むこと自体は国語力にプラスに働きますが、こと理解力に焦点を当てると、好きな本を読めばよいのではなく、読書対象の選択に注意が必要なようです。

 

また、未就学児に対する家庭での読み聞かせが、その後の子どもの語彙力や読解力に肯定的な影響を及ぼすことも報告されています。未就学児に対する絵本などの読み聞かせの量と、就学後の国語の成績を調査した研究において、多く絵本を読み聞かせたグループは、小学校中学年以降の国語の成績が、そうでないグループに比べて有意に高いそうです。

 

知性に関しては、もちろん生まれつきの要素もあります。また、言語使用の素質としての脳の基本的構造は遺伝子によって作られます。しかし、その後、環境による刺激から、脳の回路が改良されていくのです。この考え方は幼児期に行う本の読み聞かせ、あるいは学童期になってからの読書、特に説明文の読み込みが、子どもたちの理解力を高めていくのに役立つという研究結果と符合します。

 

読書をしている脳は、まず文字を音声に置き換える作業(音韻符号化)をします。同時に文の構造を理解します。最後に、書かれている内容を映像化させる、つまり心内表象化(理解)します。さらにすでに行われた理解の記憶を保持しながら、目の前の文の意味(文脈)を把握していきます。意味を理解する作業をしつつ、次から次へと目に入る文字の音韻符号化と心内表象化をくり返して、積み上げていくわけです。