自分は大丈夫――現役時代の収入が高かった人ほど、そう思いがちです。しかし、かつての金銭感覚やプライドが、老後の家計を破綻させるケースは少なくありません。なぜ十分な資産を築けないのか。多くの人が陥る収入と支出の危険な関係性とは?
恥ずかしくて言えない…〈年金月22万円〉元教師の69歳男性。教え子との同窓会で見栄を張り、〈残りの貯金〉に身震いした夜 (※写真はイメージです/PIXTA)

高収入だったが、貯蓄ゼロ…収入と支出の危険な関係

布川さんのように、現役時代にある程度の収入がありながら、老後、貯蓄は心許ない……というケースは決して珍しいことではありません。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』によると、世帯主が60代世帯の金融資産保有額は平均2,588万円(中央値1,200万円)、70代では世帯で2,188万円(1,100万円)。また預貯金残高は60代世帯で平均458万円、70代世帯で平均378万円です。一方、同調査で年間収入1,200万円以上ありながら、「金融資産は保有していない」と回答したのは9.7%と、高収入世帯の10世帯に1世帯にもなります。収入の高さが、必ずしも十分な資産形成に結びつくわけではないことがわかります。

 

高収入でありながら資産形成がおぼつかないのは、「収入=支出」という構造のため。まずは家計を見える化し、無駄を圧縮することが家計の見直しの第一歩となります。

 

なぜなら、たとえ十分な資産を築いたとしても、老後には想定外の支出が待ち受けているからです。たとえば、自分や配偶者の病気や怪我による医療費、要介護状態になった際の介護費用や住宅リフォーム代は、数百万円単位で一気に貯蓄を削り取っていきます。持ち家であれば、給湯器の故障や外壁の補修など、突発的な修繕費も必要になるでしょう。

 

このような万が一の事態に備えるべき大切な老後資金を、布川さんのように現役時代のプライドや見栄のために使ってしまう行為は、自らの首を絞めることに他なりません。過去の栄光や金銭感覚を引きずったままでは、老後破綻への道を突き進むことになりかねないのです。大切なのは、等身大の自分を受け入れ、現在の収入の範囲で堅実に暮らすこと。それこそが、穏やかな老後を守るための絶対条件なのです。

 

[参考資料]

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』