(※写真はイメージです/PIXTA)
元教師、教え子からの久々の電話に思わず…
都内の私立高校で40年ほど教べんを執ってきた布川修さん(69歳・仮名)。
「退職してもうすぐ10年ですが、今も近所で教え子に会えば『先生、お変わりないですか』などと声をかけられます。その度に、背筋が伸びる思いがします」
布川さんの年金は月額約22万円。厚生年金受給者の平均が月14万円といわれているなか、恵まれているといえます。現役時代はそれなりに給料をもらい、妻と2人の子どもを育て上げました。悠々自適とはいかないまでも、日々の暮らしに困ることはないといいます。
そんな日々のなか、先日、卒業後も付き合いのある教え子から「先生、お久しぶりです! 今度、僕らの代で同窓会をやるんですが、ぜひ先生にも来ていただきたくて」と、一本の電話があったそうです。卒業して20年。今や彼らも40歳手前。医師や弁護士、起業家として成功している者も少なくないとか。嬉しい知らせであると同時に、布川さんには一抹の不安がよぎったといいます。
「退職したとはいえ、私は彼らにとっていつまでも先生なんです。みっともない姿は見せられません」
そんな長年染み付いたプライドからでしょうか、「そうか、みんな立派になったんだな。わかった、会場は私が予約しよう。会費もいらん、お祝いだ」と言ってしまったとか。教え子は「さすが先生! ありがとうございます!」と恐縮しながらも大喜び。布川さんが予約したのは、個室のある少し高級な和食店。同窓会当日は、現役時代と変わらない仕立ての良いジャケットに身を包み、教え子たちの輪へ。仕事の話、家族の話。立派に成長した教え子たちの姿が眩しかったといいます。
「先生は今、何をされているんですか?」 と聞かれれば、「いやあ、退職してからは妻と旅行したり、趣味のゴルフを楽しんだり、気ままなもんさ」と答えた布川さん。嘘ではありません。しかし、旅行は年に一度の近場、ゴルフは付き合いで顔を出す程度。それでも、教え子たちの「いいですねえ」「優雅だなあ」という羨望の眼差しが、布川さんを饒舌にさせました。
今回の同窓会での支払いは30万円ほど。心の中で大きく動揺したものの、約束通り、すべて布川さんがスマートに払ったといいます。無駄なプライドだとわかっていても、退職後も、このような立ち居振る舞いが抜けないといいます。それは老後の生活にも影響を及ぼしているのだかとか。
「同窓会のあとふと冷静になり、預金通帳の残高を確認したんです。改めて自分の置かれている立場を理解して、身震いがしましたよ。退職金は住宅ローンの完済と家のリフォームで多くが消え、老後のためとコツコツ続けてきた貯蓄も減るばかり。生活不安から妻はパートに出ていますが、もう年ですし、『辞めたい』といっています。そうなると、家計は一層苦しくなる。変な見栄など、捨てられたらいいのですが……」