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「子どもの資金援助」が老後設計を揺るがす現実
鈴木さんのような悩みは、決して特別なものではありません。むしろ、多くの定年世代が直面しうる「子リスク」ともいえる問題です。
生命保険文化センター『2022(令和4)年度「生活保障に関する調査』によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費は、月額で平均23.2万円。さらに、旅行や趣味など「ゆとりのある生活」を送るためには、月額37.9万円が必要とされています。
仮に、公的年金だけでは不足する分を退職金で補うと仮定しましょう。たとえば、毎月10万円ずつ取り崩していけば、鈴木さんの退職金2,200万円も20年足らずで底をつきます。人生100年時代といわれる現代において、決して盤石な金額ではないことがわかります。
そこに、今回のような子どもへの資金援助が加わるとどうなるでしょうか。
国土交通省の調査によると、分譲(戸建て)の購入金は中央値4,100万円。そのうち自己資金の中央値は800万円。その内訳をみていくと、174万円は贈与でした。親の支援があった人だけに絞れば、さらに金額は上がるでしょう。現行、贈与を受けた人ごとに**、**省エネ等住宅の場合には1,000万円までは非課税なので、事情はさまざまですが、実際に1,000万円の支援を受ける人は珍しくないと考えられます。
また我が子を介して発生する孫への出費も、定年世代には大きな出費になります。ソニー生命株式会社『シニアの生活意識調査2024』によると、孫のために使った金額は平均年10万4,717円。1年で50万円以上という回答も、2.0%ありました。50人に1人……決して少なくない数値です。
子どもが可愛いと思う気持ちは、すべての親に共通するものでしょう。しかし、親自身の生活設計を犠牲にしてまで行う援助は、親子双方にとって不幸な結果を招きかねません。
重要なのは、自分たちの老後のために必要な資金を明確にし、そのうえで「子どもに援助できる上限額」を夫婦間で決めておくことです。そして、そのラインを子どもたちにも事前に伝えておく勇気も必要でしょう。時にそれは、非情な判断に思えるかもしれません。しかし、親が経済的に自立し、穏やかな老後を送ることこそが、結果的に子どもたちの将来の負担を減らすことにもつながるのです。
「妻と話し合い、長男には500万円、次男には150万円を援助することで話をしました。次男には家を買うことがあったら、その分、長男と同じくらいの金額は援助すると伝えています。甘いと思われるかもしれませんが……」
[参考資料]
生命保険文化センター『2022(令和4)年度「生活保障に関する調査』
国土交通省『2024年度 住宅市場動向調査』