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定年で仕事を辞めた元サラリーマン…子どもたちが次から次へと
都内の大手メーカーに40年近く勤め上げた鈴木誠一さん(60歳・仮名)。この春、無事に定年退職の日を迎え、退職金として約2,200万円が口座に振り込まれたのを確認したとき、長年の肩の荷が下りるのを感じたといいます。
「ようやく、ですね。妻と2人で、これからはのんびりしようと話していました。現役時代にはなかなか行けなかった海外旅行にも、年に1回くらいは行きたいね、なんて話して。老後のためにとコツコツ貯めてきた貯金に退職金、あと5年後からもらえる年金があれば穏やかな老後が送れる。そう信じていました」
鈴木さんの家族は、妻の恵子さん(58歳・仮名)と、すでに独立している長男の健太さん(32歳・仮名)、次男の拓也さん(28歳・仮名)の4人。息子たちもそれぞれ社会人として自立しており、親としての一仕事は終えた、という安堵感もあったそうです。しかし、その安堵感は、定年からわずか1ヵ月で脆くも崩れ去ることになります。
きっかけは、長男の健太さんからの1本の電話でした。
「『父さん、ちょっと相談があるんだけど』と。てっきり、近況報告か何かだと思っていたんです。そうしたら、『実は、家を買おうと思ってて。頭金のことで、少しどうにかならないかな?』と。驚きましたよ。もちろん、息子のマイホームは喜ばしいことです。しかし、続けて出てきた言葉に耳を疑いました」
健太さんがおそるおそる口にした希望額は、1,000万円。退職金のおよそ半分です。これはあくまでも誠一さんの主観ではありますが、健太さんには悪びれる様子はなく、どこか「親なら援助してくれるだろう」という期待感が透けて見えたといいます。
「不動産の価格がずいぶんと上がっているといいますし、私たちの時代より、家を買うハードルが高いのはわかっています。可愛い息子のためです。でも、私は仕事を辞めている身。その場は『少し考えさせてくれ』と返事をするのが精一杯でした」
今度は次男、拓也さんから連絡がありました。
「結婚を考えている相手がいるのだが、と言い出して、ちょっと嫌な予感がしたんです。案の定、お金の話でした。『奨学金の返済で苦しい。このままでは結婚できない。残りを払ってくれないか』と。残り150万円だというので、健太に比べたらかわいいもんだと思いましたが、当たり前だと思われたら困る。やはり『少し考えさせてくれ』と伝えるのがやっとでした」
息子たちの要求は、それぞれ事情があり、親として無下に断れないものかもしれません。しかし、その根底には「親が出してくれるはず」という甘えがあるのではないか――疑心暗鬼になっても当然でした。
「必死に働いて、子どもたちを成人させて、やっと自分たちのためだけに、と思っていたんです。まさか、まだ親離れができていないとは。一体、いつまで親をやらなければいけないんだと……。どこか情けなくて、やりきれない気持ちでいっぱいです」