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月収55万円……「教育費は心配ない」と思っていた
都内の中堅企業で働く野田幸一さん(48歳・仮名)。月収は55万円ほど。大卒の同年代の会社員と比べても、決して少なくない給与をもらっています。さらに妻はパートタイマーとして家計を支え、住まいは東京郊外の一戸建て。子どもは、ひとり娘の愛美さん(19歳・仮名)。高校を卒業し、夢を叶えるために勉強中だといいます。その夢というのが歯科医師。
「将来の具体的な目標を聞いたのは、高校2年生のときでした。正直、驚きました。夢らしい夢を聞いたことがなかったので、まさか歯医者だなんて。ですが、娘が自分で見つけた夢です。親として応援しないわけにはいきません。ただ歯学部は学費が高額であることは知っていました。そこで妻とも話し合い、『国公立大学であれば、全面的にバックアップする』と伝えていました。それが、我が家で出せる精一杯だったんです」
その日から、愛美さんは人が変わったように勉強に打ち込んだといいます。部活と勉強の両立は大変だったでしょう。疲れて、机に向かったまま寝てしまい、朝を迎えたこともあったそうです。そして迎えた、運命の合格発表日。結果は、第一志望の国立大学歯学部は不合格。抑えとして受験していた、都内の私立大学歯学部には合格したといいます。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。国公立じゃなきゃダメだって、わかってる。でも、私、どうしても歯医者さんになりたい。だから……ここに行かせてください」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら、手元の合格通知を握りしめる娘。その姿に、幸一さんは何も言えなかったといいます。国公立であれば通わせることができます。しかし、私立となると現実の壁はあまりにも高すぎました。
「一応、抑えで私立大学を受けると聞いていたので、学費を調べておいたんです。初年度だけで500万円、6年間で2,500万円。自宅から通うことができるので、下宿代や仕送りは不要ですが、私には天文学的数字に思えました」
「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返す娘に対して、安易に「いいよ」と言ってやれない不甲斐なさ。お金を理由に子どもの夢を諦めさせなければならないかもしれない。その可能性が重く幸一さんの肩にのしかかる……。長い、長い夜だったそうです。