給与明細の数字は増えているはずなのに、なぜか生活は楽にならない。そんな実感はありませんか。物価高、教育費、そして老後の不安…。多くの現役世代が直面する「見えない所得減」の正体と、その構造的な問題をデータから紐解きます。
〈月収58万円〉45歳サラリーマン「飲み水は会社で補給」を徹底。節約術の「切ない動機」に同僚も絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

サラリーマン家庭が直面する「実質的な所得減」の現実

厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和5年8月分結果速報』によると、現金給与総額は30万517円(規模5人以上)で前年同月比1.5%増、基本給にあたる所定内給与は26万8,202円で2.1%増でした。賃上げの裾野の広がりが所定内給与を押し上げたとみられます。現金給与総額は44ヵ月連続の上昇。給与が上がり続けて4年弱になります。

 

しかし物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で1.4%減。こちらは8ヵ月連続でマイナス。しかも前回プラスに転じたときは賞与の影響が大きく、すぐにマイナスへと転じました。そのことを考慮すると、実質3年以上は給与減の状況が続いているといえるでしょう。

 

一方で、家計へのしかかる負担は増すばかりです。ソニー生命保険株式会社『子どもの教育資金に関する調査2023』によれば、子ども1人が小学生から社会人になるまでに必要と予想される教育資金は、平均で1,489万円。この金額は4年連続で上昇しており、家計を圧迫する大きな要因となっています。

 

さらに、その先には「老後」の問題が待ち構えています。総務省『家計調査 家計収支編 2023年平均』では、無職の高齢者夫婦の1ヵ月の支出は平均約25万円。公的年金などの収入だけでは毎月約3万円の赤字となり、仮に老後が30年続くとすれば、単純計算で1,000万円以上の貯蓄が必要になります。今後、年金の受給額が実質的に減少することも見込まれており、この金額はあくまで「最低限」のラインといえるでしょう。

 

月収58万円という一見恵まれた収入がありながらも、佐藤さんが「老後破産」という言葉を口にするのは、こうした背景があるから。住宅ローン、3人の子どもの教育費、そして自身の老後資金。迫りくる複数の大きな支出を前にすれば、「できる節約はなんでもやる」という選択は、決して大げさなものではなく、むしろ実に現実的な自衛策なのかもしれません。

 

[参考資料]

厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和5年8月分結果速報』

ソニー生命保険株式会社の『子どもの教育資金に関する調査2025』

総務省『家計調査 家計収支編 2023年平均』