給与明細の数字は増えているはずなのに、なぜか生活は楽にならない。そんな実感はありませんか。物価高、教育費、そして老後の不安…。多くの現役世代が直面する「見えない所得減」の正体と、その構造的な問題をデータから紐解きます。
〈月収58万円〉45歳サラリーマン「飲み水は会社で補給」を徹底。節約術の「切ない動機」に同僚も絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

給湯室で怪しい動きをみせる“うちのエース”

都内のIT企業で働く佐藤健太さん(45歳・仮名)。社内でも期待のエースに数えられ、月収は58万円と、同期のなかでも頭ひとつ抜けている存在。そんな佐藤さんが社内の給湯室で何やら不審な動きをしているのを、同期の岡本直哉さん(45歳・仮名)が発見し、声をかけたといいます。

 

「今年の夏は暑かったので、500ml、なかには1Lのペットボトルを会社下のコンビニで買って出社する……ほとんどの人がそんなことをしているなか、佐藤は空のペットボトルに水を入れていたので……」

 

理由を尋ねると、節約のために水を買うのを我慢し、給湯室で水を汲んでいるとのこと。「コンビニでペットボトルを買っても98円ですよ。うちのエースが毎日の100円を切り詰めるなんて……」と岡本さん。岡本さんが冗談めかして「小遣いでも減らされたのか?」と尋ねたところ、返ってきた答えは予想以上に深刻なものでした。

 

「いや、住宅ローンに、子ども2人の教育費に物価高だろ。さらに今年、3人目が生まれてさ。20歳になるときには還暦超えているわけよ。先行き不透明過ぎて……水道代だってバカにならないだろう。少しでも節約しようと始めたわけ」

 

確かに、昨今の物価高は、多くの家計を直撃しています。とはいえ、浄水器がついているわけでもない水道の蛇口から、マイボトルと称した空のペットボトルを使いまわし水を補給する姿は、あまりに衝撃的。「何も、そこまでする必要あるか?」とツッコミを入れたあと、言葉が続かない岡本さん。佐藤さんは明るいトーンでこう答えたそうです。

 

「奥さんもパートに出ているけど、本当にキツイよ。一番下の子が20歳になったら、俺は65歳だよ。今から節約できるところは節約しないと、老後破産は確実だよ」

 

子どもが1人だという岡本さんは、「子どもが3人となると、本当に大変なんですね。私は無理だな、あんな生活……」とぽつりと漏らしました。苦しい表情ではない佐藤さんが、せめてもの救いだといいます。