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退職金をすべて住居に充てることの危険性…流動性の確保を
退職金や自宅の売却益をすべて投じて新居を一括購入することは、一見、老後の安心につながるように見えますが、資金計画上の大きなリスクを伴います。
安藤さんのケースでは、退職金と売却益のほとんどを住居という固定資産に換えてしまったため、予期せぬ出費が発生した場合にすぐに使える流動性の高い資産が残されませんでした。この流動性の不足こそが、老後生活を困難にする要因です。
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯(世帯主が65歳以上)の所得は、公的年金・恩給が主であり、「全所得に占める割合が100%」という世帯が4割。「80〜100%」も含めると6割になります。公的年金が生活の柱であるからこそ、年金収入では賄えない突然の出費や、予測しづらい固定費の増加に対応できる「現預金」を別に確保しておく必要があるのです。
特に高齢になると、安藤さんのように医療費が増加するリスクがあるだけでなく、老後の生活資金として退職金を活用する人もいます。つまり、退職金は病気や介護の備えとしての性格が強いといえます。
住居は老後の安心材料ですが、退職金の大半を投入してしまえば、生活費や緊急予備費が手薄になり、結局は老後にアルバイトなどで現金を稼がざるを得ない状況に追い込まれます。老後の資金計画においては、住居費を抑える工夫をし、退職金はあくまで毎月の生活費や不測の事態に備えるための現金・預金として残すことが、最も重要であるといえるでしょう。
[参考資料]
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』