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相続の「公平」をどう実現するか?
民法では、子どもたちは兄弟の区別なく、原則として均等に財産を相続する権利(法定相続分)を持ちます。遺言書は故人の意思として非常に強い効力を持ちますが、たとえ遺言で全財産を長男に、と定めていたとしても、次男の次郎さんは「遺留分」として、法律で定められた最低限の取り分を主張することができます。
また親の介護などに貢献した場合、その貢献度に応じて「寄与分」を主張できる可能性もあります。逆に一郎さんが受けた学費や住宅資金援助などが「特別受益」とみなされれば、相続財産の前渡しとして、その分が一郎さんの相続分から差し引かれることも考えられます。法律は、公平性を重視する仕組みを持っているのです。
しかし、これらの主張は、多くの場合、相続人同士の紛争、すなわち裁判などの法的な争いへと発展します。裁判所『司法統計』で遺産分割事件の件数を見ても、約7割が遺産額5,000万円以下の一般的な家庭で起きていることからも、争族が他人事ではないことがわかります。
伝統的な「家督相続」の意識、すなわち「家を継ぐ長男」を優遇する考え方は、現代の法制度のもとでは効力を失っています。しかし、特定の地域や世代では、「長男が家を継ぐべき」という意識が未だに根強く残っています。ただ、最も重要なのは、親が生前に自分の考えを明確に伝え、子どもたちの状況や貢献を正しく評価し、その思いを伝えること。相続財産の多寡に関わらず、親の死後に兄弟が争う原因の多くは、「親の意向が不明瞭だった」ことや、「特定の相続人への贈与を知らなかった」ことなど、生前のコミュニケーション不足にあります。
「確かに、遺言書をみてしまったあと、父や兄を一方的に避けてきました。決定的なことを言われるのが怖かったからかもしれません。ただ今となっては、きちんと話をしたほうがよかったと思っています」
[参考資料]
法テラス『遺産分割に関するよくある相談』、『遺留分・寄与分・特別受益に関するよくある相談』
裁判所『司法統計』