相続が発生したとき、誰が何を受け取るのか……血のつながりよりも、慣習が優先されるケースもいまだ少なくありません。法の下では平等であるはずの相続も、現実には思いもよらぬ格差を生むことがあります。そのとき、人は何を感じ、どう向き合うのでしょうか。
なんで俺だけが…42歳・非正規次男の絶望。実家と〈資産5,000万円〉をエリート長男が独占した「悲劇的な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

42歳・非正規次男が実家を飛び出した理由

最近、82歳で父親が亡くなり、相続を経験したという、地方在住の津島次郎さん(仮名・45歳)。大学進学時に上京するも就職活動に失敗。地元に戻り、現在は契約社員として月収28万円の生活を送っています。

 

一方、兄の一郎さん(48歳・仮名)は、東京の一流大学から一流企業に就職。東京都心の高級マンションにマイホームを構えるエリートです。40歳を超えるまで実家を出られずにいた次郎さんとは対照的な人生を歩んできました。

 

「大学卒業しても仕事がなく、とりあえず実家に戻りました。そのあと派遣社員として働いていたのですが、派遣切りにあって……今は契約社員で、決して給料がいいわけではないけれど、生活は安定しています」

 

実家を出たのは3年前、42歳のとき。きっかけは、次郎さんが“あるもの”を見てしまったから。

 

「父親が作成した遺言書です。たたきみたいなもので正式な遺言書ではなかったけれど、それを見て、もう実家にはいられないと思い、出てきたんです」

 

それ以来、実家や兄とは疎遠となり、最低限の付き合いしかしなくなりました。そうさせたのも、すべては遺言書の内容だったといいます。

 

「実家と、貯金などの資産約5,000万円を、すべて兄の一郎に相続させるというもので……私の名前はどこにもなかったんです。目の前が真っ暗になりました。自分という存在が否定されたような、そんな絶望しかありませんでした」

 

父親の気持ちもわからなくないと次郎さん。生まれ育った地は、いまだに家督制度の考えが色濃く残る地域。実家を継ぐのは長男。だから遺産はすべて長男に……父親は何も考えずに、ただ慣習に則っただけ。そう考えると、遺言書に悪意はなかったと納得できます。しかし就職に失敗し実家に戻ってきたとはいえ、早くに母を亡くし、1人になった父親を支えてきたのは自分だという自負がありました。しかしそんな思いは完全に無下されたのです。

 

「なぜ、俺だけ、こんな目に……」

 

葬儀のあと、相続については「遺言書のとおりでいい」と兄に告げ、遺産分割協議書にサインをしてそれっきりだといいます。