長年の労働の対価であり、老後の安心の材料でもある「退職金」。しかし時として夫婦関係に深刻な亀裂を生む火種にもなり得ます。夫が描く夢、妻が抱く現実的な不安。どちらも譲れない想いがぶつかるとき、大きなトラブルに発展。多くの夫婦が直面しうる、お金を巡る価値観の相違についてみていきましょう。
「俺の稼いだ金だろ!」退職金2,500万円の使い道を巡り、〈月収9万円〉の57歳パート妻がぴしゃり。絶望のなか定年夫が家を飛び出した夜 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金」は誰のもの?すれ違う夫婦の価値観

修さんのように、退職金の使い道を巡って夫婦間に亀裂が生じるケースは珍しいことではないようです。そもそも法律上、婚姻期間中に夫婦が協力して得た財産は「共有財産」と見なされ、退職金もその対象となります。離婚時の財産分与では、勤務先の規定や婚姻期間などを考慮し、貢献度に応じて分配されるのが一般的です。つまり、直美さんの言う「あなた一人が稼いだお金ではない」という主張は至極まっとうなものです。

 

しかし今回は、結婚生活において経済的に抑圧され続けてきた修さんの我慢が、「定年後の生きがい」を否定されたことで限界を迎えました。

 

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、「どの程度生きがいを感じているか?」の問いに対して、「感じていない」は23.2%。高齢者の4人に1人は生きがいを感じることなく、日々を暮らしています。

 

*あまり感じていない、まったく感じていないの合計

 

また男女別ではどの年代でも男性のほうが生きがいを感じていない傾向にあります。長年、仕事中心の生活を送ってきた男性ほど、生きがいを見つけることが難しいからかもしれません。

 

もちろん、老後の生活資金に不安を抱く直美さんの気持ちも十分理解できます。総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、平均的な高齢者夫婦の1カ月の支出は25万円ほど。年金などの収入に対して、毎月3万円ほどの赤字を抱えます。それまでコツコツと貯めてきた資産が、じわりじわりと減っていく――そんな老後を前にして、不安を募らせるのは当たり前です。

 

退職は、夫婦にとってライフステージの大きな転換点です。これからの人生を共に歩んでいくためにも、お互いの将来の夢や目標について、改めてじっくりと話し合うことが何よりも重要です。まずは、それぞれの希望を伝え、尊重しあうこと。そのうえで、家計の状況を二人で共有し、どこまでなら実現できるのか具体的な着地点を探っていく。そうした丁寧な対話こそが、お金の切れ目を縁の切れ目にしないための、唯一の道筋といえるでしょう。

 

「頭に血がのぼっていたので、いったん冷やそうと思いましたが、やはり無理でした。妥協はできません。ただ感情的にならず、ゆっくり説得していこうと思います」

 

[参考資料]

法テラス『財産分与に関するよくある相談』

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』