(※写真はイメージです/PIXTA)
「大切なものが入っている」…生前の父の言葉を頼りに、まずは金庫を探した
「3年前に母が亡くなってから、父はめっきり元気をなくしていました。口数も減り、時折寂しそうな目で空を見つめている姿が今も忘れられません。そんな父が亡くなったのは、今年の春のことです」
82歳で生涯を終えたのは、田中昭さん(仮名)。その長男の田中一郎さん(55歳・仮名)は、遺品整理で実家を訪れたときの話をしてくれました。実家を訪れたのは葬儀以来、1カ月ぶり。次男の二郎さん(52歳・仮名)、妹の咲子さん(50歳・仮名)と一緒です。
「父は生前、大事なものはすべて書斎の金庫に入れていると言っていました。金庫といってもたいそうなものではなく、“鍵のついた箱”というレベルのものですよ。相続に関連するようなものはそこに入っているだろうと、まずは金庫を見つけることに」
幸い、金庫は書斎にある机の一番下の引き出しに入っていて、すぐに見つけることができました。そこには実印や不動産関連の書類にまじって、見慣れない銀行の通帳が1冊と、1通の封筒が入っていました。
通帳の表紙には父の名前。しかし、その残高を見た一郎さんたちは息をのみました。記されていたのは「3,000万円」という、きょうだいの誰もが把握していなかった大金でした。封筒には、何通もの手紙が入っていました。しかも差出人は女性の名前。
「母さんが亡くなって寂しかったからって、まさか……」
「隠し子という可能性も……」
亡くなった父の秘め事に、その場は騒然。一郎さんは「うっ、うそだろ」という口のまま、言葉を失ってしまったといいます。重苦しい空気のなか、封筒のなかを見ると、入っていたのは複数の手紙。しかしその手紙の内容はきょうだいの想像とはまったく異なるものでした。差出人はとある児童養護施設の園長。そして手紙の内容は、写真付きで子どもたちの成長の様子が綴られていました。
「この前XXちゃんは、絵画コンクールで入選しました」
「OOくんは、運動会のリレーで一等賞を取ることができました」
「△△くんは、園を出る年齢になりました。春から警察官として働きます」
まるで孫の成長を報告するかのような、温かい文面でした。
「どういうこと?」
3人の頭には疑問符ばかりが浮かびましたが、1冊の日記を見つけ、すべての謎が解けることに。実は亡くなった両親は、定年以降、その児童養護施設に寄付を続けていたのです。
「きっかけは、たまたまテレビで観たのがきっかけのようで。施設の子たちの成長が生きがいになっていたみたいですね」
3,000万円もの大金が入っていた通帳。ほぼ年金だけで暮らしていた昭さんは、退職金は手つかずに残していた――というのが顛末でした。