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幸福の絶頂だったはずの…結婚式の翌朝
小林正人さん(仮名・58歳)。「人生において最高の日だった」というその翌日に、奈落の底に落とされたといいます。
「娘の結婚式だったんです。バージンロードを歩きながら涙が止まらなくて。あんなに小さかった娘が結婚だなんて」
家族の幸福が最高潮に達したはずの一日。しかし、その余韻は、翌朝には跡形もなく消え去っていました。リビングのテーブルに、妻・優子さん(仮名・53歳)が長年身に着けていた結婚指輪と、一通の封筒が置かれていたのです。
「中には、署名済みの離婚届と手紙が入っていました」
手紙は一緒に娘を育ててきたことへの感謝から始まっていましたが、そのあとには離婚を決意させた決定的な出来事が記されていました。それは、正人さん自身には、妻を「諭した」くらいの記憶しかなかった、過去の一日だったといいます。
「妻は、趣味のお菓子作りで何度もコンクールで入賞するほどの腕前でした。手紙には全国コンクールで初めて金賞をもらったあとに、洋菓子店の事業計画書を見せてくれた日のことが書かれていました」
正人さんは、もちろん覚えていました。そして、家族の将来を思って、現実を教えたつもりだったのです。
「私は『すごいな』とほめつつも、『商売はそんなに甘くない。家のローンだってまだ残っているんだぞ』と伝えたかと思います。妻の努力は認めていましたが、主婦が店を持つなんてリスクが大きすぎる。家族の安定を守るために、反対するのは当然だと思っていました」
しかし、優子さんが受け取ったメッセージはまったく違うものでした。
「手紙は『あなたは私の計画書に目を通すこともなく、私の覚悟を主婦のお遊びだと断じた。自分はあなたの妻である限り、夢を語ることも、夢に向かって挑戦することもできない存在なのだと悟った』と記されていたんです」
今は友人とともに洋菓子店の出店に向けて動いている。娘が嫁ぎ、母としての役目は終わった。同時に、妻としての役目も終わらせたい――それが優子さんの願いだったのです。