「給料を上げるから辞めないでくれ」。これは会社が社員の引き止めに使う常套句です。しかし、転職を決意した35歳以上のミドル社員は、給与アップを提示されても9割以上が会社を去るという厳しい現実が、調査で明らかになりました。給与だけでは解決できない根深い問題、そして、安易な引き止めが招く「キャリア停滞」という残酷な末路についてみていきます。
「給料を上げるから辞めないでくれ」は罠か?一度辞意を伝えた〈35歳以上社員〉に待ち受ける「キャリア停滞」の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

2割が経験する「退職ハラスメント」…どう立ち向かうべきか

交渉がエスカレートし、ハラスメントの領域に踏み込むことも珍しくありません。実に転職コンサルタントの2割が「不当な引き止め(退職ハラスメント)に遭遇したことがある」と答えています。

 

最も多かったのは「上司による恫喝」(47%)。「退職届を受け取らない」「必要書類の発行を遅らせる」といった嫌がらせ(いずれも44%)も横行しています。これらは労働者の「退職の自由」を脅かす行為であり、違法とみなされるケースも少なくありません。

 

もし、このような「退職ハラスメント」に遭ってしまったら、どうすればいいのでしょうか。専門家は、「退職の意思はメールなど記録に残る形で伝える」「『相談』ではなく、辞めるという『報告』のスタンスを貫く」「恫喝されたら録音する」といった自衛策を挙げています。感情論に付き合わず、客観的な事実で冷静に対応することが肝心です。

会社は「気持ちよく送り出す」勇気をもつべき

今回の調査結果は、多くの企業に対し、「引き止め」というその場しのぎの対策の限界を突きつけています。優秀なミドル世代が「辞めたい」と思う根本的な原因、つまり評価制度、キャリアプラン、働く環境、そして企業文化そのものにメスを入れなければ、人材の流出は止められません。

 

退職交渉の場は、辞める社員から会社の課題を聞き出せる最後のチャンスでもあります。その声に真摯に耳を傾け、組織の改善につなげることこそ、未来の離職者を減らすための最善策ではないでしょうか。

 

〈参考資料〉

エン・ジャパン株式会社『ミドル世代の「転職時の引きとめ」実態調査。引きとめの手段、上位は「年収アップの提示」。一方で転職を思いとどまる方は1割未満。引きとめ時に見られるハラスメント、トップは「上位役職者による恫喝」』