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教員を追い詰める「制度的」な課題
教育現場は構造的な問題を抱えたままです。
文部科学省のガイドラインでは、中学校教諭の時間外労働は「原則として月45時間、年360時間以内」などと定められています。しかし、2023年、指針で定める「45時間以下」だった中学校教諭の割合は57.5%。中学校教諭の残業時間は「45時間超~80時間以下」が34.4%、「80時間超」は8.1%でした。池田さんが証言した「月120時間」はかなり少数ではありますが、大袈裟な数値ではありません。
この長時間労働の根源には、「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という法律の存在があります。この法律は、教員には時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4%に相当する「教職調整額」を一律で支給すると定めています。
1971年に制定された当時は有効に機能していたかもしれませんが、部活動指導や多様化する保護者対応などで業務が著しく増大した現代においては、実質的な「定額働かせ放題」の制度となっており、長時間労働の温床となっているのです。
こうした過酷な労働環境は、教員の心身を確実に蝕んでいます。文部科学省の調査では、2023年度に精神疾患を理由に休職した公立学校の教員は7,119人。中学校では1,705人で、5年で2割以上の増加。池田さんのように、心が壊れる前に自ら教壇を去ることを選ぶ教員も少なくありません。
「生徒のため」という教員の情熱と使命感が、日本の教育を支えてきたことは紛れもない事実です。しかし、その善意に依存し続ける構造が限界を迎えていることもまた確かです。
幸いなことに、近年では部活動を外部指導員に委ねる方向で見直したり、ICT(情報通信技術)の活用で事務作業を効率化したりと、教員の負担を軽減しようとする前向きな動きも各地で生まれ始めています。
こうした小さな変化の芽を社会全体で育て、教員が心身ともに健康で、専門職としてのやりがいを実感しながら働き続けられる環境を再構築していくこと。それが、未来を担う子どもたちのため、そして「先生になりたい」と夢見る若者のためにも、社会の責務といえるでしょう。
[参考資料]
文部科学省『教員勤務実態調査(令和4年度)集計【確定値】 』
文部科学省『令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』
e-Gov法令検索『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』