親の介護は、ある日突然、そして容赦なく始まる。それは、一つの問題が解決したかと思えば、また次の問題が降りかかる、終わりの見えない闘いの始まりかもしれない――。近畿地方在住の高蔵小鳥さん(仮名・42歳)は、両親の離婚や自身の転職を経て、実家に戻り、憧れだったアパレル系の会社で人事として働いている。家事は母に任せきりで、悠々自適な暮らしのはずだったが……。旦木瑞穂氏の著書『しなくていい介護 「引き算」と「手抜き」で乗り切る』(朝日新聞出版)より、高蔵さんのリアルな体験談から、私たちが目を背けてはならない現実を浮き彫りにする。
78歳母は、認知症とがん。父との離婚で年金わずか…無断で「実家」を売り払う派遣社員の42歳一人娘に、母が放った「衝撃のひと言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「認知症」と気がついたきっかけ

保険問題で奔走していた高蔵さんは、近所に住む母親の友人から声をかけられる。

 

「最近お母さんの様子が変だと思っていたの。話していても、同じことを何度も言ったり、約束したことを全然覚えてなかったりするのよ。うちの夫も認知症の初期で同じような症状だったから気になって……」

 

高蔵さんはすぐに近所の病院に母親を連れていくと、検査の結果、「アルツハイマー型認知症」と診断された。

 

「まさか自分の親が……と思いました。でもこの時点では認知症というものがあまりどういうものかわかっておらず、徐々にその大変さがわかってきた感じです」

 

要介護認定を受けると、要介護2と認定された。

「胃がん」と「認知症」…入院中に重なった“二重の試練”

ショックを受けながらも高蔵さんは、母親を連れてデイサービスの施設を見学した。1軒目の施設は認知症の利用者が多く、静かな雰囲気だったため、居心地の悪さを感じた母親は、しばらくして「帰りたい」と言った。だが、2軒目の施設は賑やかな雰囲気で、母親は「帰りたい」と言わなかったため、2軒目の施設に決定。最初は週に2回から利用を始めた。

 

ところが、それから半年も経たない2020年1月。かかりつけ病院で母親が定期検診を受けたところ、「大丈夫だと思うけど、ちょっと気になるから大きな病院で検査を受けてみてほしい」と言われて総合病院で検査を受けた。すると、ステージ2の胃がんだと診断される。

 

「母には全く前触れの症状はなく、それなのに胃を半分くらい取るほど大きな手術を受けることになり驚きましたが、手遅れにならなくて良かったとも思いました。総合病院の医師には、『後少し見つかるのが遅かったら、命が危なかったかもしれない』と言われました」

 

すぐに母親は手術を受けることになり、手術後は約2ヶ月の入院。その間に母親は認知症の症状が進んだ。

 

「入院前はまだそれほど物忘れがひどくなかったのに、手術後の回復が悪く、せん妄が出たのと、自分が手術をして病院にいるということが理解できず、混乱したようです。『外にずっと出されていた』とか『変な男の人が入ってきた』とか『食事を食べさせてもらえない』とか言い、自分がどこか変な施設に入れられて帰してもらえないとずっと言ってました。どれだけ説明してもすぐに忘れるので、何度も同じ説明をしないといけなくて大変でした」

 

手術直後は全く動けないため問題はなかったが、少し動けるようになってくると、トイレに行かなくても良いように導尿のチューブを入れているにもかかわらず、自分でトイレに行こうとしたり、勝手に点滴などを外して家に帰ろうとするようになった。