親と折り合いが悪く、大人になってから距離をとる子世代は少なくないだろう。しかし、高齢の親に無策のまま「もしも」のことがあった場合、子世代にはより心身に負担がかかることも。旦木瑞穂氏の著書『しなくていい介護』(朝日新聞出版)より、50代女性の事例をもとに実情をみていく。
父が大火傷を負っても決して帰らなかった50代一人娘、愕然。「至急来てほしい」緊急連絡で、20年ぶり帰省…変わり果てた〈両親の姿〉と〈実家のありさま〉【介護の実態】 (※写真はイメージです/PIXTA)

母からたびたび電話も帰省せず…両親と距離を置く50代女性

現在50代の櫻木佳菜子さんは一人っ子。大学進学を機に長野から上京し、卒業後は商社に入社。早朝から深夜まで仕事に打ち込み、管理職まで上りつめた。婚歴はあるが、1年ほどで離婚。そのとき両親に「仕事ばかりしているから逃げられるんだ」と責められて以来、両親と距離を取り続けている。

 

しかし、時々母親から電話がかかってくることはあった。母親からの電話で、父親が熱中症で倒れたと聞いても、容体は安定しており、2〜3日で退院できる見込みだと言うので帰らなかった。その後、「お父さんがよく怒るようになって手が付けられない」という電話が増えたが、ただの夫婦喧嘩だと思い、「そんなことくらいで電話してこないで」と言って切った。

 

それからは父親に対する愚痴で電話がかかってくることはなくなったが、荷物を送ると言ったのに届かないことや、「姉から『旅行に一緒に行かないか?』と言われた」という電話があり、「母の姉は数年前に亡くなったはずなのに」と思ったが、特に気にも留めずにいた。

 

その後、「お父さんがストーブの前で寝てしまい、すねから膝にかけて両足とも火傷を負ったけれど、近所の病院で薬をもらい、塗っていれば治るから」という電話があったが、やはり帰省しなかった。

 

「至急来てほしい」病院からのSOSで、約20年ぶりに実家へ

ところが、それから10日ほど後の電話で、「お父さんが総合病院に入院するかもしれない」と聞かされる。

 

火傷をした後、母親が薬を塗ろうとすると父親が怒るので、母親は薬を塗るのを止めてしまった。その上、父親は抗菌薬も飲まなかったため、化膿して感染症を引き起こしてしまったのだ。

 

その後病院から、「治療の同意書や入院の申込書の記入をお願いしたいから、至急来てもらえないか」と電話があったため、櫻木さんは約20年ぶりに長野に帰省することに。