理想の間取り、最新の省エネ設備、そして高年収を背景にした潤沢な住宅ローン。夢のマイホーム計画は、輝かしい未来を約束してくれるように思えます。しかし、多くの人が購入時の「イニシャルコスト」に集中するあまり、もう一つの重要な側面を見落としがちなようです。
〈世帯年収1,320万円の30代夫婦〉8,000万円で理想の家を新築、大喜びも…2年後に“誰もいない”子ども部屋をみつめて落胆。待ち受けていた「想定外の未来」 (※写真はイメージです/PIXTA)

想定していなかった未来

10~15年ごとに必要となる屋根・外壁の塗り替え(約200万円)。太陽光発電のパワーコンディショナー交換(約30万円)。蓄電池の交換(約150万円)。給湯器やエアコンの交換費用。これらの費用は消耗品の交換とみなされ、メーカー保証では賄えません。

 

それらの費用を年表に落とし込んでいくと、子どもの教育費がかさむ時期と、家の維持費がかかる時期が、見事に重なっていることが判明したのです。シミュレーションの結果は、衝撃的なものでした。

 

65歳時点の貯蓄 およそ200万円

 

さらに、もし変動金利が今後わずかでも上昇すれば、8,000万円という巨大な元本が家計に重くのしかかります。家計に一息つく暇は、老後まで一切ない計算でした。

 

「子ども、もう一人は無理かもしれないね……。子ども部屋は3つあるのに」「子どもたちも、私たちと同じように奨学金を借りることになるのかも……」「また節約の生活が始まるのね……」ツトムさんはあからさまに肩を落とし、エリさんは思わず涙ぐんでしまいました。

 

理想を着々と叶えていたはずの夫婦の表情は、みるみる暗くなっていきました。

日本の住宅は「消費財」

なぜ、これほど維持費が問題になるのでしょうか。それは、日本の住宅購入が「投資」ではなく「消費」に近い実情があるからです。

 

国土交通省の過去の資料では、国民が住宅に投じた累計額よりも、現存する住宅の資産価値の総額が、数百年兆円単位で下回っているというデータも存在します。これは、住宅の資産価値が投資額を上回るのが一般的である欧米と比較して、対照的でしょう。日本では、建物の寿命が短く、中古住宅市場も未成熟なため、家を買うことが資産を減らす行為になりがちなのです。メンテナンスを怠れば、資産価値はゼロになり、解体を待つだけの「ボロ屋」と化してしまいます。

購入前に知るべき「家の価値」の守り方

では、どうすれば「住まいとしての資産価値」を守れるのでしょうか。大切なのは、購入時の安さやスペックだけでなく、長期的な視点を持つことです。

 

1.維持費を含めた予算を立てる

まず、40年後までのメンテナンス費用(修繕や設備の交換)の概算を、住宅メーカーに出してもらいましょう。そのうえで、将来の家計シミュレーションを行い、維持費を払い続けられる予算内で家を購入することが重要です。

 

2.建物の「本当の寿命」を考える

現在30代なら、90歳まで生きたとして60年間、その家に住むことになります。60年間、大規模な建て替えなしで維持できる品質の建物を選ぶとすれば、初期コストの安さだけを追求すべきではない、という結論に至るはずです。

 

3.老後に暮らしやすい間取りか

身体が不自由になった際の動線や、手すりの設置スペース、救急隊の搬出経路なども考慮した間取りは、将来の無駄なリフォーム費用を抑えることに繋がります。

 

「夢のマイホーム」が、将来の家計を圧迫し、家族の選択肢を狭めることになっては本末転倒です。購入時の高揚感だけでなく、数十年後の自分たちの暮らしを冷静に見据え、住まいとしての資産価値を守るという視点を持つことが、後悔しない家選びの第一歩です。