親や祖父母からの資金援助で、夢のマイホームを──。それを後押しする「住宅取得等資金の贈与税非課税措置」は、多くの若い世代にとって心強い制度です。しかし、適用要件を誤解し、のちのち後悔することも……。実情をみていきます。
念願のマイホーム購入!それぞれの親から1,000万円ずつ贈与を受けた「世帯年収820万円・33歳夫婦」…税務署から〈否認通知〉が届いて愕然。やり直しもできず、さらなる愕然 (※写真はイメージです/PIXTA)

1年後、税務署から届いた「否認通知」

新居での生活が落ち着いた翌年の夏、夫婦のもとに税務署から「贈与税の申告に関するお尋ね」と「住宅取得資金贈与の非課税特例の否認通知」が届きました。通知に記載された追徴課税額をみて、夫婦は愕然とします。

 

完璧に思えた計画に、どんな欠陥があったのでしょうか。

計画の3つの落とし穴

夫婦の計画が非課税の条件を満たさなかったポイントは、大きく3つありました。

 

1.特例の対象は「家屋の所有者」のみ

この制度は、あくまで「住宅用の家屋」を取得するための資金贈与が対象です。国税庁の要件には、「贈与を受けた者が住宅用の家屋を所有(共有持分も含む)すること」と明記されています。カナさんは土地を取得しましたが、建物はヨシヒコさん単独名義。カナさんは「家屋の所有者」ではないため、非課税特例を使えませんでした。

 

2.資金負担と登記持分のミスマッチ

土地代1,500万円のうち500万円はヨシヒコさんの自己資金。それにもかかわらず土地をカナさん単独名義にしたため、ヨシヒコさん→カナさんへの500万円の贈与とみなされ、思わぬ贈与税が発生しました。

 

3. 贈与のタイミングが早すぎた

特例では「贈与を受けた年の翌年3月15日までに家屋が“完了に準ずる状態(実務上は上棟相当)”になっていること」が必要です。夫婦は贈与を受けた翌年4月に着工したため、この期限を満たさず、非課税が否認されました。

やり直しは困難

一度成立した贈与を取り消すことは、国税庁の解釈上、非常に困難です。後戻りできない状況を知った夫婦は、人生最大の買い物で大きな後悔を残すことに。

 

では、どうすればよかったのでしょうか。最善策の一例は以下のとおりです。

 

・土地はヨシヒコさんが贈与と自己資金で購入し、自身の名義にする。
・建物はカナさんが贈与を頭金にし、残りをヨシヒコさんのローンで支払い、夫婦の共有名義にする。
・資金割合に応じて登記持分を適正に設定する。

 

このようにしていれば、双方が非課税枠を使えた可能性が高かったのです。

廃止も近い?「生前贈与」のこれから

この住宅資金贈与の非課税制度は、現在2026年12月31日まで延長されています。ただし、政府の税制改正大綱では「格差固定化の懸念」から将来的な見直しが議論されています。そのため、駆け込み利用が増える可能性もありますが、建築資材や人材不足で着工が遅れるケースも少なくありません。

 

贈与を行う前に、施工スケジュールが期限に間に合うか確認し、かつ税理士など専門家に相談することが、これまで以上に重要になっています。