(※写真はイメージです/PIXTA)
1年後、税務署から届いた「否認通知」
新居での生活が落ち着いた翌年の夏、夫婦のもとに税務署から「贈与税の申告に関するお尋ね」と「住宅取得資金贈与の非課税特例の否認通知」が届きました。通知に記載された追徴課税額をみて、夫婦は愕然とします。
完璧に思えた計画に、どんな欠陥があったのでしょうか。
計画の3つの落とし穴
夫婦の計画が非課税の条件を満たさなかったポイントは、大きく3つありました。
1.特例の対象は「家屋の所有者」のみ
この制度は、あくまで「住宅用の家屋」を取得するための資金贈与が対象です。国税庁の要件には、「贈与を受けた者が住宅用の家屋を所有(共有持分も含む)すること」と明記されています。カナさんは土地を取得しましたが、建物はヨシヒコさん単独名義。カナさんは「家屋の所有者」ではないため、非課税特例を使えませんでした。
2.資金負担と登記持分のミスマッチ
土地代1,500万円のうち500万円はヨシヒコさんの自己資金。それにもかかわらず土地をカナさん単独名義にしたため、ヨシヒコさん→カナさんへの500万円の贈与とみなされ、思わぬ贈与税が発生しました。
3. 贈与のタイミングが早すぎた
特例では「贈与を受けた年の翌年3月15日までに家屋が“完了に準ずる状態(実務上は上棟相当)”になっていること」が必要です。夫婦は贈与を受けた翌年4月に着工したため、この期限を満たさず、非課税が否認されました。
やり直しは困難
一度成立した贈与を取り消すことは、国税庁の解釈上、非常に困難です。後戻りできない状況を知った夫婦は、人生最大の買い物で大きな後悔を残すことに。
では、どうすればよかったのでしょうか。最善策の一例は以下のとおりです。
・建物はカナさんが贈与を頭金にし、残りをヨシヒコさんのローンで支払い、夫婦の共有名義にする。
・資金割合に応じて登記持分を適正に設定する。
このようにしていれば、双方が非課税枠を使えた可能性が高かったのです。
廃止も近い?「生前贈与」のこれから
この住宅資金贈与の非課税制度は、現在2026年12月31日まで延長されています。ただし、政府の税制改正大綱では「格差固定化の懸念」から将来的な見直しが議論されています。そのため、駆け込み利用が増える可能性もありますが、建築資材や人材不足で着工が遅れるケースも少なくありません。
贈与を行う前に、施工スケジュールが期限に間に合うか確認し、かつ税理士など専門家に相談することが、これまで以上に重要になっています。