進学や就職、結婚などで「実家を出る」人は多いものの、さまざまな理由から「実家に残る」という決断をした人も。そこには大きな「経済的メリット」がある場合も多いですが、いつまでもメリットを享受できるとは限りません。一瞬にして終わりを迎えることも珍しくはないのです。
〈年収600万円〉〈貯金1,000万円〉実家暮らしの42歳ひとり息子。完璧な人生設計を崩壊させた「72歳父のひと言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

順風満帆なはずだった…42歳・エリート会社員の誤算

都内の大手メーカーに勤務する加藤拓也さん(42歳・仮名)は、自分の人生に一点の曇りもないと信じていました。年収は600万円を超え、堅実に続けた貯金は、ついに大台の1,000万円に到達。42歳になった今も、両親が暮らす都内の実家での生活を続けています。

 

「結婚には特に興味がありませんでした。仕事は順調ですし、職場と家の往復だけでもそれなりに充実しています。何より、実家暮らしは経済的に非常に合理的です。家賃や光熱費の大きな負担はなく、その分を貯蓄や自分の趣味に回せる。この生活を続ければ、老後も安泰だと考えていました」

 

加藤さんの人生設計は、この実家が土台となっていました。一人息子である自分が、いずれはこの家を相続する。都内に一戸建てを構えるという多くの人が夢見る目標を、自分は労せずして手に入れられる。その前提があったからこそ、1,000万円という貯金額にも「十分すぎる備えだ」と自信を持っていたのです。

 

父親は72歳、母親は70歳。一緒に住む両親は、70代を迎えました。ともに健康で、父の年金は月20万円ほどあると聞いています。経済的な不安がまったくないことも、加藤さんにとっては安心材料でした。いつまでも子どものように小言を言われることはありますが、それでも関係は良好。「ある意味、人生の勝ち組だ」と加藤さんは思っていたといいます。

 

しかし、そんな安定も、ある日を境に崩壊します。加藤さんの父親が改まった口調で切り出したのです。

 

「大事な話がある。この家だが、売ることに決めた」

 

一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。冗談かと思い父の顔を見ても、真剣そのものだったといいます。なぜ家を売るのか? それは自宅を売却して、夫婦で老人ホームに入居することにしたというのです。つまり、終活の一環で自宅を売却し、住み替えを行うという決断。予期せぬ言葉に、加藤さんは頭が真っ白に。

 

「じゃあ、俺はどこに住めばいいんだよ!」

 

思わず声を荒らげた加藤さんに、父親は厳しい視線を向けひと言。

 

「お前も、いい大人だろ。自分の将来は自分で決めろ」