人生を家族に捧げてきたとしても、その思いが同じ形で返ってくるとは限りません。実は思いも寄らぬ現実が潜んでいることがあります。定年という節目は、積み重ねてきた年月の重みと、隠された真実を突きつける瞬間でもあるようです。
俺は何のために働いてきたのだろう…〈月収68万円〉58歳の男性。家族のために身を粉にして働いてきたが…定年直前「30年分の貯金通帳」を見つけて膝から崩れ落ちたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「知らなかった」では済まされない…浪費妻が招く「最悪の結末」

長年連れ添った夫婦が定年を機に離婚する「熟年離婚」において、金銭問題は深刻な火種となり得ます。

 

裁判所『令和4年 司法統計年報』によると、離婚の申立て動機として「浪費する」という項目は、夫側からが8.6%、妻側からが10.5%を占めています。金銭感覚や価値観の違いが、定年という人生の節目で表面化することも珍しくないようです。

 

では、なぜパートナーに隠れてまで浪費を続けてしまうのでしょうか。その背景には、単なる物欲だけでなく、複雑な心理が隠されている場合があります。たとえば、高価な物を所有することで満たされる承認欲求や、夫婦間のコミュニケーション不足からくるストレスを買い物で発散する、といったケースです。

 

もし、このような浪費が原因で離婚に至った場合、法的にはどうなるのでしょうか。夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産は、原則として2分の1ずつ分け合う「財産分与」の対象です。しかし、一方の配偶者がギャンブルや過度な買い物など、明らかに不当な目的で財産を減少させた場合、その行為は「特有財産の不当な処分」と見なされ、浪費した分を差し引いて財産分与額が調整される可能性があります。

 

さらに、浪費の程度が夫婦生活を破綻させるほど深刻で、協力・扶助義務に著しく違反していると判断されれば、民法上の離婚原因である「悪意の遺棄」に該当する可能性もゼロではありません。ただし、どこからが「浪費」で、どこまでが「許容範囲」なのかを法的に証明するのは容易ではないのが実情です。

 

「妻に通帳を突きつけると、意外にも冷静でした。『やりくりして使っていただけよ。贅沢もしたけれど、老後のためにしっかり貯金もしているわ』と、別の通帳を見せられました。確かに、その貯金と私の退職金を合わせれば、老後は安泰でしょう」

 

ただ、明彦さんの心は晴れないままだといいます。

 

「問題はお金じゃないんです。金額でもない。どこか価値観がズレている……そんな、もやもやとした感覚なのです」

 

〈参考資料〉

裁判所『令和4年 司法統計年報』

e-Gov 法令検索「第七百六十二条(夫婦間における財産の帰属)」「第七百六十八条(財産分与)」