人生を家族に捧げてきたとしても、その思いが同じ形で返ってくるとは限りません。実は思いも寄らぬ現実が潜んでいることがあります。定年という節目は、積み重ねてきた年月の重みと、隠された真実を突きつける瞬間でもあるようです。
俺は何のために働いてきたのだろう…〈月収68万円〉58歳の男性。家族のために身を粉にして働いてきたが…定年直前「30年分の貯金通帳」を見つけて膝から崩れ落ちたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

家族のために捧げた30年…定年間際に襲った「まさか」の裏切り

大手企業で部長職を務める金子明彦さん(58歳・仮名)の現在の月収は68万円ほど。世間ではエリートと呼ばれる部類のサラリーマンですが、定年まであと2年を切り、これまでの会社員人生を振り返ることも多くなったといいます。「すべては家族のため。この一言に尽きますね」と金子さんは語ります。

 

「平日は終電まで働くことも多かったですし、週末は接待ゴルフでつぶれる。管理職になってからは、ずっと部下と上司の板挟みで胃が痛む日々でした。それでも私には家族がいる。それだけで頑張ってきました」

 

仕事に打ち込めたのは、妻・里美さんのおかげでした。家のことや子どものことは、すべて里美さんがこなしてくれたのです。しかし、全幅の信頼を寄せる妻に対し、不信感を覚えることもあったといいます。

 

「妻は時々、ブランドものの新しい服やバッグを買ってきます。しかし自分が稼ぎ、頑張っているからこそ妻はブランドものを購入できる、むしろ誇りに思うべきだと自分を納得させていました」

 

いつからか、夫婦の会話は子どもの進学や家の修繕といった「業務連絡」ばかりになっていました。妻が日中、何をしているのか、何を感じているのか――そんなことに思いを巡らせる余裕も、きっかけも失っていたのです。

 

そして、ある週末に事件は起こりました。

 

普段はさわることのない妻のクローゼット。たまたま掃除を手伝っていた明彦さんは、その奥にしまわれた古い木箱に気づきます。何気なく蓋を開けると、中に入っていたのは見覚えのない預金通帳が十数冊。すべて妻の個人名義のものでした。そこに記されていたのは、明彦さんの知らない支出入の記録。一番古いものを確認すると、かれこれ30年前のものであることがわかりました。

 

さらに木箱からはクレジットカードカードの明細も出てきました。それは、明彦さんがファミリカードとして渡していた会社のものとは違うもの。摘要欄には「OOデパート」「XXブティック」「旅行代金」などと記されていました。明彦さんの把握していないところで、妻はへそくりをやりくりし、散財をしていた――その記録だと考えられました。

 

「自分がワンコインの昼食で済ませていたその日に、妻は高級ホテルのランチを楽しんでいた。私が必死の思いで契約を取ってきたボーナスが、妻のブランドバッグに変わっていたのです」

 

本当は、うすうす気づいていたのかもしれません。しかし、家族の体裁を守るために見て見ぬふりをしてきました。決定的な証拠を前に、明彦さんはその場に崩れ落ちるしかなかったのです。

 

「俺は何のために働いてきたのだろう……」

 

しばらく呆然として、その場を動けなかったといいます。